記事:共同通信社 提供:共同通信社
【2008年10月14日】
「みんな、うんち好きですかー」。王冠をかぶり黄色いマントを羽織った「うんち王子」が叫ぶ。「きらーい」「きたなーい」「くさーい」。元気いっぱいの子どもたちの声が体育館に響いた。 神奈川県秦野市の市立渋沢小で開かれた「うんち教室」。いろんな物をバランスよく、よくかんで食べて、体を動かす。約140人の3年生が、そんな「元気なうんちの作り方」を学び、乾くと硬くなる粘土を使ってカラフルな「うんちえんぴつ」作りに熱中した。 1時間半があっという間にすぎ、王子が「うんち大好きですかー」と聞くと「はーい」と大きな声が返ってきた。
▽崩れるリズム
うんち教室は日本トイレ研究所(東京)が製紙メーカー、王子ネピアの協賛を得て関東地方の小学校で開く総合学習プログラムだ。狙いは「トイレやうんちの大切さ」を伝えること。引っ張りだこの人気が続いている。 教室の後は特製の「うんち日記」を全員にプレゼント。1週間、朝食の内容、便の特徴や回数を記録してもらう。 便秘だった子が毎日出すようになった。どんな便が出たか毎日教えてくれる。苦手だったワカメや野菜も食べるようになった-。保護者から驚きの声が寄せられる。 「いいうんちを出して記録したいという純粋な気持ちで子どもたちの食が変わり、行動が変わっている」。うんち王子こと研究所所長、加藤篤(かとう・あつし)(36)はそう分析する。 「1日に保健室に来る子は5、6人で3分の1は腹痛です。朝食を食べなかったり、うんちが出づらくなったりして、リズムを崩している」と渋沢小養護教諭の伊藤優紀(いとう・ゆうき)。ゲームなどで夜更かしし寝坊するのが原因だ。 この日のうんち教室で朝食を食べた子に手を挙げてもらうと、半分よりもやや多い程度だった。
▽がんに関与
不規則な生活やストレスも便に影響するが、日本人のおなかを大きく変えたのは食事だ。ごはんにみそ汁、漬物といった食物繊維たっぷりの日本食から、肉食中心へ。それが大腸の「腸内環境」を悪化させた。 「大腸がんが増えているのがその証拠だ。特に女性では、がんによる死亡の中で大腸がんが最も多い」と、理化学研究所(埼玉県和光市)で腸内にすむ細菌を研究する辨野義己(べんの・よしみ)(60)は言う。 米国の白人も昔は胃がんが多かったが、1920年代以降、冷凍技術の普及に伴い肉の消費が増え、大腸がんが増えた。 辨野によると、人間の大腸には「腸内常在菌」が1000種類以上すみ、集めると重さは1キロを超える。便の80%は水分で、残り20%の固形物の3分の1は生きた細菌だ。 腸内細菌には感染を防ぎ免疫を刺激する「善玉菌」のビフィズス菌や乳酸菌、腸内を腐敗させ毒素をつくる「悪玉菌」の大腸菌やウェルシュ菌、周囲の影響で働きが変わる「日和見菌」がいる。 善玉菌2割、悪玉菌1割、日和見菌7割が理想のバランス。何を食べるかで菌の働きやバランスが変わる。動物性脂肪を取り過ぎると、発がんを促す物質を出す菌が勢いづき、大腸がんになるのでは、と辨野は考える。 年を取ると腹圧が弱まって便が出にくくなり、腸内環境は悪化する。辨野は、老化との対比で腸内環境の状態を表す「腸年齢」を考案した。
▽「ふん育」
昨年、ヤクルト本社と共同で東京と大阪の20-60代の女性計600人を調査。6割強で腸年齢が実際の年齢を上回り、若い人ほど腸内環境が悪かった。20代なのに老人並みの人もいた。 好きな物だけ食べ、肉が好き、運動しない。そんなライフスタイルが原因だ。「子どもは母親の腸内細菌を受け継ぐので心配だ」と辨野。 辨野は肉だけを食べるという実験をしたことがある。朝はハムやソーセージ、昼と夜はステーキ。1日1.5キロの肉を40日間食べ続けた。 便は次第に黒ずんでいき、強烈なにおいでトイレに入るのも嫌になった。腸内細菌も変わった。実験前には善玉菌が悪玉菌より多かったのに、実験後は逆に、悪玉菌の方が優勢になっていた。 「食べ物で腸内細菌は変わる。良い働きをする菌がいるんだと、あのとき初めて実感した」 腸内細菌は、免疫疾患などいろいろな病気にかかわっている可能性がある。何と、肥満を促進する腸内細菌もいる。 辨野は今、腸内細菌を調べて健康指導をする「おなかクリニック研究所」の設立を目指す。 「『食』で腸内細菌を制御すれば、病気を予防できる。うんちの状態から逆算して食生活を決めることを学ぶ『ふん育』こそが大事です」 |