2008/11/19 がんのリスク・マネジメント:(16)野菜・果物とがん:食物繊維とβ-カロテン 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(16)野菜・果物とがん:食物繊維とβ-カロテン
2008年11月18日 毎日らいふ
野菜と果物が健康に良いといわれる理由の1つに、食物繊維があります。食物繊維には、グルコースやコレステロールの吸収を抑えることによる糖尿病や心疾患の予防効果があります。それに加えて、便容積を増大させ、排便を促進し、発がん物質が腸管と接触する時間を短くする、あるいは、腸内細菌叢を変化させ2次胆汁酸などの産生を抑えるなどによる大腸がん予防効果が期待されます。
食物繊維と大腸がんとの関連はイメージ的にもわかりやすいためか、広く知られています。この仮説が、食物繊維の豊富なアフリカ人の便の量が多く形状が柔らかいことを観察したヨーロッパ人医師の報告により唱えられたのも有名です。しかしながら、近年の欧米のコホート研究の結果では、予防効果が認められた報告もあれば、認められなかったとする報告もあり混沌としているのが現状であることは、まだそれほど知られている話ではありません。研究結果の分析に当たって、そもそも何を食物繊維に含めるべきかという議論もあります。世界保健機関(WHO)では、食物繊維は植物の細胞壁に由来する多糖類に限定し、難消化性のデンプンやオリゴ糖とは区別して考えようと提唱しています。
それはそうと、過去最大級のエビデンスとして、2006年に、欧米の13のコホート研究を統合した73万人の解析結果が報告されました。その結果、食物繊維の予防効果は全体としては認められませんでした。しかしながら、1日10g未満と極端に少ない量しか摂取していない約1割の人たちでは、リスクが上昇したことが示されています(図左側)。
日本人約9万人を約10年追跡した多目的コホート研究でも、食物繊維の摂取量と大腸がんリスクの間に、全体としてはっきりとした量とリスクの関連はみられませんでした。ただし、女性については、少ない方から数えて全体の15分の1という最少グループの大腸がんリスクは、多い方から数えて5分の1の最多摂取量のグループの約2倍という結果でした(図右側)。つまり、食物繊維摂取量の極端に少ないグループ(平均6g/日程度)では大腸がんリスクが高くなるという、欧州の統合研究と同様の知見が得られました。
このことから、大腸がん予防のためには、ある程度の量を摂っていれば十分であり、それ以上食べても予防効果は変わらないという可能性が高いと考えています。
最後に、野菜・果物にがん予防効果があるとして、その有効成分を取り出して実際に応用しようという試みについて述べます。
世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)による「食事、栄養、身体活動とがん予防の世界評価」の2007年の改訂では、食事に含まれる栄養素とは別に、サプリメントを用いた無作為化対照試験の結果を反映した評価が行われています。その1つとして、β-カロテンが肺がんリスクを上げるのは確実という評価になっています。特に、欧米の喫煙者を対象にβ-カロテンの肺がん予防効果を期待した2つの研究で、1日20mgや30mgという食事からは摂取できないほどの量を投与した結果、逆に肺がんリスクが高くなったというエビデンスに基づいています。
この他、β-カロテンのサプリメントには、前立腺がんと皮膚がん予防効果が期待されていました。しかしながら、その最終的な確認となる質の高い試験が数回繰り返された結果、どちらのリスクにもそれほど影響しないという結論を得ています。
メカニズムや動物実験のデータなどからは、野菜・果物の特定の成分にがん予防効果を期待するのに十分な結果が得られていました。しかしながら、多ければ多いほど良いとするエビデンスは限られていて、どれか1つの成分、あるいはサプリメントを勧める科学的根拠は、現状において十分とは言えません。
その上、前回述べたように、野菜・果物をトータルにとらえて、その多少によるがんの発生リスクを比べても、ほとんど差は認められませんでした。したがって、野菜・果物摂取によるがん予防効果は、たとえあったとしても、それほど大きくはないことが予想されます。
現時点での結論としては、上部消化管がんや循環器疾患の予防効果は大いに期待されるので、がん予防についても不足しない程度の野菜・果物摂取を心がけると良いでしょう。
◇津金 昌一郎(つがね・しょういちろう)
国立がんセンターがん予防・検診研究センターの予防研究部長。1981年慶應義塾大学医学部卒業、85年同大学大学院修了(医学博士)、03年から現職。主な研究分野はがんの疫学研究で、人集団を対象に、様々な要因と病気の関係を検証しながら予防法を探っている。「多目的コホート研究」という大規模長期追跡調査や、国内の研究を要約・評価して確かな予防法を提示する「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」などの研究班を率いる。「がんになる人ならない人」(講談社ブルーバックス)などの著書がある。
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