記事:共同通信社 提供:共同通信社
【2008年6月25日】 蛍光灯の白い光の下、着信の赤ランプが瞬き続ける。夜の闇の向こうから、助けを求める声が押し寄せる。「日が昇るまで生きて」。相談者の苦しみを受け止めるのはボランティアの主婦や学生、会社員ら。「眠らない電話」で年間1万2000件超の相談を受ける民間団体、東京自殺防止センター(新宿区)を訪ねた。
▽消えたい
午後8時、繁華街から離れたマンション2階の事務所。最初につながったうつ病の女性と話し始めて13分後、相談員の主婦(64)が聞いた。 「死にたいと思うことはありますか」。本当の気持ちを吐き出してもらうための「死の問い」はどの相談員も必ず口にする。女性の答えは「消えてしまいたい」だった。 「泣きたい時は泣いていいんですよ」と寄り添う相談員。40分ほど話して受話器を置くと、すぐ次の電話が入る。 「疲れた。いろいろあって...」。また女性。ぽつり、ぽつりと話す。3人目は年配の男性。公園のベンチからだ。「首つりを考えているが周りに迷惑をかけたくない」 午前零時。公衆電話の男性は、経験5年の男性相談員(31)に告げた。昼間も自殺しようとしたが踏ん切りがつかなかった。これからまたやるつもり。相談員は「死んでほしくない」と伝えたが、通話度数がなくなり切れた。「気掛かりです。またかけてきてほしい」 東京自殺防止センターは1998年発足。ちょうど日本の自殺者数が3万人を超えた年だ。大阪で同様の取り組みをしていた西原由記子(にしはら・ゆきこ)さん(75)が開いた。所長の加藤勇三(かとう・ゆうぞう)さん(70)は「『生きたい』と『死にたい』の間で揺れる人の力を信じ、歩き出すのを待つのが大事」と話す。
▽10年前の宿題
相談員を目指して研修中の高城洋子(たかぎ・ようこ)さん(54)=仮名=は10年前に弟を自殺で亡くした。死の数カ月前、東京から広島に帰省した際、本を読んでいた弟に声を掛けたのが最後のやりとりになった。「どう?」「ああ」。あの時、もっと話をしていたら?。 弟にしてやれなかったことを誰かのために。10年間抱えてきた「宿題」だ。死のふちに立つ人の心の声をとことん聞き、生きていてと伝えたい。 西原さんは、自殺者が後を絶たない現実に憤然とする。センターが命綱になってきた自負はある。だが、多くの人が希望を持てない社会。「国はもっと人々の『痛み』に目を向けてほしい」 午前6時。電話が鳴りやむころ、窓の外には青い空が広がっていた。10時間で受けた相談は38件。つながらなかった電話もたくさんある。
※ 東京自殺防止センター
東京自殺防止センター 相談は毎日午後8時から翌午前6時まで、電話03(5286)9090。ほかに、自殺しようとしている人の求めに応じてスタッフが駆けつける「緊急訪問」や、事務所での面接相談なども実施している。 |