記事:共同通信社 提供:共同通信社
【2008年6月25日】 店員がカウンター越しに声を掛け、世間話に花が咲く。「コーヒーもう1杯どう?」。何杯飲んでも100円だ。 世界遺産の白神山地のふもと、秋田県藤里町に火曜日の午後だけ開店するコーヒーサロン「よってたもれ」がある。秋田弁で「寄ってください」という意味。2003年5月の開店以降、不定期の移動式サロンも含め4000人以上が訪れた。
▽オアシス
運営するのは自殺予防を考える民間団体「心といのちを考える会」。会長で住職の袴田俊英(はかまだ・しゅんえい)さん(49)は、店を「縁側のような場所」と表現する。農家の縁側でお茶を飲みながら世間話をしていた昔のように、誰でも集まれる場所を作ろうという発想から始まった。 店を訪れる客の話をじっくり聞き、深刻な内容なら場所を移して相談に乗ることもある。つらい思いを抱えて涙を浮かべて来る客も、一緒にコーヒーを飲むことで癒やされるようだという。 「機械化が進み、農作業が1人でできるようになったことで『人のつながり』が切れ、精神的な不安定さが生まれた」と袴田さん。「1人で悩まない状況を作ることが大切。誰かに『大変だ』と言える雰囲気をつくれば、自殺は少なくなるかもしれない」と期待する。 店でくつろいでいた藤里町の村岡宏明(むらおか・ひろあき)さん(53)は「気軽に来られるオアシス。火曜になると『行かねばな』と思う。楽しみが増えた」とコーヒーを1口飲み、満足そうに目を細めた。
▽孤独より孤立
秋田県が、地域社会でそれまで「タブー視」されがちだった自殺問題を正面から取り上げ、本格的な対策に乗り出したのは2001年度。 地域の保健師や開業医が、自殺の背景にあるとされるうつ病の兆候を早期に発見し、専門医につなげるための研修などにいち早く力を入れてきた。体の不調は心の悩みが原因になっていることも多く、かかりつけの内科医などに「目利き」をしてもらうのが狙いだ。 袴田さんらのような民間団体の活動もあり、07年の自殺者数は秋田県警のまとめで417人と前年より76人(約15%)減少。人口10万人当たりの自殺率は、発生地で集計する警察庁の統計では山梨県を下回ったが、自殺者の居住地でみる厚生労働省の人口動態統計では1995年から全国最悪が続いている。 「独り暮らしより、大家族の中で暮らしている高齢者の方が『居場所がない』といった疎外感を感じやすい。孤独より孤立が問題」と秋田県の担当者。それでも手応えを感じているのか「『自殺率ワースト県』の返上はここ1、2年が勝負」と意気込んだ。
※秋田県の自殺者
秋田県の自殺者 秋田県警によると、県内の2007年の自殺者417人のうち男性は309人、女性は108人だった。年代別では60代が66人で約16%、70代以上が111人で約27%となっており、60歳以上が全体の40%以上を占めた。 |