2008/5/15 不眠とメタボ 負の連鎖(2) @nifty.comより転載
不眠とメタボ 負の連鎖(2)
2008年5月15日(木)0時0分配信 読売ウイークリー
掲載: 読売ウイークリー 2008年5月25日号
終夜睡眠ポリグラフを患者に装着する検査技師。この男性患者(35)は、「夜間頻尿で睡眠中、何度も目が覚める。一日中眠くて仕方がない」と訴え、1泊して検査を受けることになった(名古屋市中区の岡田クリニックで)
メタボ健診で「睡眠」軽視
今年4月から始まった「特定健診・保健指導」(メタボ健診)。ところが、メタボ健診には「睡眠」の重要性が欠落している。
メタボ健診には、厚生労働省の標語通り、「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ」が反映され、睡眠については、「問診内容の『休養』の中に睡眠が入っている程度」(専門家)である。
清水徹男・日本睡眠学会理事長は、厚労省がメタボ健診策定に先立って開いた専門家や有識者による協議に、「睡眠学会のメンバーは策定に関与しておらず、睡眠に関する議論はほとんどなかったようだ」と指摘する。
同省健康局は、メタボ健診について、
「メタボ対策に関する一般的な普及・啓発活動が狙い。国は枠組み作りだけで、後は個別の健保組合ごとにケース・バイ・ケースで対応してほしい」
という。
そんな状態だから、睡眠に対する温度差は明らかだ。たとえば、厚労省の標準プログラムにのっとった、ある健保組合の質問票では、「睡眠で休養が十分取れていますか」と漠然とした質問が一つ入っているだけ。
一方、粥川裕平・名古屋工大保健センター長の場合、睡眠習慣やいびき、眠気の程度など「睡眠」だけで数十項目を質問する。睡眠に関する問題意識の持ちようでメタボ健診の内容も大きく異なってきそうだ。
まだ“発展途上”の睡眠医療
なぜ、睡眠は軽視されたのか。
「睡眠医療や教育環境が整備されておらず、専門家も育っていないからです」
塩見利明・愛知医科大教授は、そう説明する。久留米大病院(福岡県)に日本初の睡眠医療外来ができたのが1981年。「睡眠学」も2001年に日本学術会議が提唱した新しい学問だ。睡眠医療に熱心に取り組む愛知医科大でも、「今ようやく医学部の5年生に睡眠科の臨床実習(BSL)を始めたところ」(塩見教授)という。
専門医の数も少ない。日本睡眠学会のホームページによると、認定医は全国で349人、認定医療機関は計62か所しかない(07年7月現在)。
専門医以外の医師の認識もそう高くない。グラフ4の示す通り、かかりつけ医に「眠れているか」と聞かれた経験のある人は、生活習慣病を治療中の患者で34%、指摘を受けながら未治療の人では25%しかいない。
内村直尚・久留米大教授は、「一般医は不眠の知識に乏しく、患者も限られた診察時間で不眠についてなかなか話せない。病院の待合室で問診票に不眠の有無の質問を加えるなどのひと工夫が必要だ」と指摘する。
患者側にも「不眠は病気」と認識している人は少ない。グラフ5によると、不眠で悩んだ経験があっても、77%は医師に相談したことがない。
相談した経験のある人のうち、83%が医師から睡眠の質問を受けており、患者が言い出しさえすれば、そこから始まるのだが。WHOの調査では、不眠で診察を受ける日本人は8%で、世界的にも低い数字という。
メタボ健診に基づき、保健指導を行う保健師、管理栄養士、看護師らも、専門知識が十分とは言えない。
結局のところ、「まだ睡眠と生活習慣病の関係を広く知ってもらう段階。健診にどう取り入れるかは、今後の課題」(兼板佳孝・日大准教授)というわけだ。


「不眠」の半数以上何もせず
では、不眠に悩む人はどうしているのか。医師に相談して処方薬をもらう人はわずか18%で、53%と半数以上が、何も対処していなかった。寝酒を飲む人は20%、市販の睡眠導入薬を使う人が6%だった。
内村教授は、「お酒を飲んで3〜4時間たつと覚せい作用が現れるため、睡眠の質を悪化させる。アルコールは耐性が強いため、寝酒を繰り返せばアルコール依存症にもなりかねない。市販薬も常用すれば依存症になりやすく、慢性不眠患者には不向き。専門医に相談して適切な睡眠薬の処方を受けてほしい」
と訴える。
不眠に悩む人は、専門医の受診が何より大切だ。セルフチェック表も活用してほしい。
メタボより不眠治療が先決
それでは、「不眠でメタボ」の場合はどうか。
すでに糖尿病などを発症し、医師の治療や食事指導を受けている人は別として、「肥満解消より不眠治療のほうが先決」という専門家は多い。
塩見教授によると、不眠を治して質の良い睡眠を取らないと、栄養や運動指導も続かず、運動しても疲れが翌日まで残ってしまうという。
実際、睡眠不足で気だるい身では、運動する気力もわいてこないし、運動の時間も取れない多忙な人もいる。内村教授の調査によると、生活習慣病治療中の不眠患者が、医師処方の睡眠薬によって睡眠を改善させた場合、過半数の51%で生活習慣病も改善されたという。
「肥満気味の人を急に運動させるのは無理」と話すのは、河盛隆造・順天堂大大学院教授(内科学)だ。
「『運動しなさい』と言われれば、ジョギングや水泳を考えるでしょう。しかし、日ごろの運動不足による過体重で、膝にも負担がかかっています。最初は立っている時間を増やすだけでいいのです。会議中や勉強会、通勤時、自宅でテレビを見ているときなどを立って過ごし、まず筋力をつけて、徐々に速足でより長く歩けるようにしてください。この積み重ねでエネルギー消費量が高まる体に変わるのです」
米科学誌「サイエンス」への寄稿論文によると、太っている人と痩せている人の生活習慣を比較したところ、太っている人の座っている時間が1日当たり9時間31分で、痩せている人より2時間44分長かった。エネルギー消費量に換算して350キロカロリーの差となり、すぐ座る癖が肥満を導くことを物語っている。河盛教授によると、MRIの画像診断でも、短期間の歩行習慣によって筋肉や肝臓内の脂肪蓄積量が劇的に減少することが証明されたという。
「睡眠の質を高めるためには、生活のリズムを守ることが大切。出張の移動中の電車や飛行機の中で1時間以上眠ると、夜寝付けなくなる。また、自宅やホテルで深夜のテレビやネットを見て過ごせば、交感神経が刺激され続けて眠れなくなるのは当然」(河盛教授)という。
快眠のコツについては、専門医らで組織する「快眠推進楽部」や睡眠関連企業の「快眠コンソーシアム」の各ホームページでも紹介されている。健康と快適な生活を取り戻すため、多忙でも工夫して、睡眠を取ることが必要だ。
メモ
【不眠】寝付きが悪い(入眠障害)、眠りが浅い(熟眠障害)、夜中に何度も目覚め、その後寝付けなくなる(中途覚せい)、朝早くに目覚め、その後眠れなくなる(早朝覚せい)といった症状が代表的。早朝覚せいは高齢者に多い。不眠の原因は、騒音、深夜勤務、ストレス、悩み事、身体症状、精神疾患など多種多様だ。
受診するのは、日本睡眠学会の認定医療機関のほか、神経内科や精神科などとなる。検査は問診に加え、睡眠自体を調べる場合はポリグラフ検査を行う。治療は症状に応じて、睡眠リズムの適正化、寝室環境の整備、睡眠前の刺激物や嗜好品を避けるなどの生活指導を行うほか、心身のリラックスを促す自律訓練法、特殊な照明装置で体内リズムを取り戻す方法などがある。睡眠薬を用いる場合は、薬効が2〜4時間という「超短時間型」から24時間以上の「長時間型」まで4タイプの睡眠薬のうち、患者の症状に合わせて医師が処方する。
頭と胸はグルグル巻き。センサーを体中に装着し、検査に臨んだ
「重度のSAS!」診断結果に愕然!
不眠メタボ記者1泊検査入院ルポ
最近疲れやすい、午後になると睡魔が襲う、しかし日常生活に支障はなく寝付きも悪くない――そんな記者は今回、取材先で“緊急”の検査入院後、重度のSASと診断され、そのまま治療開始となった。記者もデスクも唖然の展開である。
専門クリニックの「代々木睡眠クリニック」(東京都渋谷区)で記者は、井上雄一院長に、こう尋ねた。
「メタボで不眠の患者を探しています」
すると、井上院長は、記者の体形(身長169センチ、体重85キロ、腹囲105センチ)をまじまじと見ながら、「あなたこそ、条件にピッタリでは。最近眠れていますか」と言い出した。
ふと一患者として説明すると、「8対2の確率で睡眠時無呼吸症候群(SAS)と見ました。あなた自身が体験するのが一番良いのでは」と促され、急転直下、その日同クリニックに1泊して睡眠障害の程度や原因を調べる「終夜睡眠ポリグラフ検査」を受けることになった。
包帯グルグル巻きで就寝
問診の後、午後6時に再来院して採血、血圧測定、レントゲン撮影、鼻腔通気度検査、肺機能検査を受けた後、夜間睡眠の質量、眼球運動や呼吸状態、心電図、血中酸素の状態を調べるためのセンサーを顔や胸、足に装着。天井2か所でカメラでもモニターされている。
夜9時半に消灯してもらったが、顔は包帯でグルグル巻きにされ、気が散って眠れない。水分を控えていたのに、夜2回もトイレに起き、そのたびにナースコールで終夜モニター中の検査技師を呼んで、いったんセンサーを外してもらった。朝6時半に起こされて検査は終わったが、9時間も床の中にいたのに気分はどんより重い。
翌日、解析結果を知るためにクリニックを訪れると、
「重度のSASです」
井上院長は、そう厳しい顔で告げた。まさか。思わず苦笑したら笑っている場合ではないとたしなめられた。
「1時間当たりの平均無呼吸回数は約35回で、1時間に33回も目が覚めています。これではいくら寝ても疲れが取れませんし、高血圧を含めて重度のメタボリック症候群を発症する可能性があります。すぐに治療を始めましょう」
記者の場合、SASの程度を示す無呼吸・低呼吸指数は1時間当たり40.8で、重度とされる「30以上」を軽くオーバーしていた。記録データには断続的に16〜23秒間も呼吸が止まっており、深い睡眠もほとんどない。
記者の場合、肥満に加え、骨格上、気道が狭いという。妻に電話で検査結果を伝えると、「今までよく生きていたわね」とあきれた様子だ。実際、重症のSAS患者は10年後の生存率が健常者に比べて30%低いデータもあるという。

記者のあごの骨や舌の状況を調べるため、横顔をレントゲン撮影する
「重度のSAS」を示す検査データ=小倉和徳 撮影
CPAP療法を始めるため、再び検査入院することに。
CPAPとは、寝るときに鼻マスクを装着し、空気で圧力をかけ、閉塞状態の気道を押し広げる治療器具。井上院長によると、「有効性・安全性が高くて劇的な効果があるため、研究が進んだ。全世界で最も普及している」という。その後、CPAP機器をレンタルして持ち帰り、自宅で毎晩、装着すれば、スッキリした朝が迎えられるという。
なかには、装着時の違和感がぬぐえない人もいるようだ。CPAP治療中の同僚記者(46=身長171センチ、体重77キロ)は、
「圧迫感はあるし、冬は鼻先に冷たい風が吹き付け、1か月間鼻炎に苦しんだ。朝方に寝ぼけてはがしてしまう」
と証言する。そんな人には、のどを広げるマウスピースを装着する治療法もある。
記者は最近、減量に励んでいたせいもあり、自分が「睡眠障害」だとは夢にも思っていなかった。わが身の反省も込めて声を大にしてお伝えしたい。
日中眠い、熟睡感がない、いびきが大きいといった症状のある人は、ぜひ専門医を受診してください。
(本誌 大屋敷英樹)
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2008/5/14 不眠とメタボ 負の連鎖(1) @nifty.comより転載
不眠とメタボ 負の連鎖
2008年5月14日(水)0時0分配信 読売ウイークリー
掲載: 読売ウイークリー 2008年5月25日号
「最近、よく眠れていますか」。医師の診察は、まず患者への問診から始まる(左は内村直尚・久留米大教授)
「最近、よく眠れていますか」。医師の診察は、まず患者への問診から始まる(左は内村直尚・久留米大教授)
4月から始まった「特定健診・保健指導」(メタボ健診)にみるまでもなく、メタボの“怖さ”は定着した。放置しておけば、死に至る恐れがあるからだが、実は、「メタボ」には、知られざる双子がいた。それが「不眠」である。眠れない、寝覚めが悪い、日中睡魔が襲う――こんな自覚症状があるなら、要注意だったのだ。
「起きると肩が重く、おなかがもたれる感じで気分も良くない」
大手メーカー勤務のトシオさん(38)は、朝いつも憂うつな気分だ。片頭痛もよくある。
出社の足取りは重い。仕事は設計業務でデスクワークが主体だが、午後になると、「耐えがたい睡魔との闘い」が始まる。顔を洗い、軽く歩いて気分転換を図るが、それでも夕方になると、仕事の効率がガクンと落ちる。
5年前に異動してから寝床に入っても寝付けず、朝早く目が覚めてしまうといった症状が出た。心療内科に通院し、睡眠薬の処方を受けているのだ。
職場の人間関係は良好だが、納期に追われる仕事のため、ストレスは強烈だ。残業は多い月で100時間を超える。酒は付き合いで月1回程度、たばこは吸わず、間食もしない。だが、残業を終え、夜中の12時ごろ、独身で一人暮らしをする自宅に戻ると、「ホッとして、猛烈な空腹を覚え、カップめんかコンビニ弁当を食べてしまう」生活。就寝は午前2時ごろになる。
そんな生活を続けた結果、身長は168センチで、異動前には70キロ台だった体重がいまや88キロ。腹囲も95センチとなる、日本肥満学会が「内臓脂肪型肥満」と位置付ける男性の腹囲85センチを楽々クリアしている。
夜食ドカぐいサラリーマン
血圧は150〜90ミリと、高血圧気味で、中性脂肪やコレステロール値も高い。「生活習慣病の予備軍」と不安だし、「食べると太る」のはわかっているが、空腹には勝てない。しかも、ついつい、から揚げやとんかつ弁当を選んでしまう。
「休日は疲れ切っていて、自宅で寝て過ごし、映画を見ているうちに終わる」。趣味のツーリングも、最近は行く気力がわかない。そもそも運動の習慣は学生時代からない。
粥川裕平・名古屋工大保健センター長のもとには、最近トシオさんのようなケースの患者が多数訪れる。
とりわけ目立つのは、ハイテク企業で働くサラリーマン。トシオさんの場合、過重労働による慢性的睡眠不足が続いて疲労性抑うつ状態が生じ、過食による肥満、高血圧の診断となった。放置すれば、数年から10年の間に脳こうそくや脳出血、心臓疾患による突然死、過労死の心配もあるほか、現在は完治しているうつ状態がぶりかえして自殺の危険すら考えられるという。
ここで、注目してほしいのは、トシオさんの場合、要注意項目の肥満と高血圧はさることながら、不眠によって医療機関にかかったことだ。「不眠」は、ごく普通のトシオさんのようなサラリーマンにとってごく当たり前の症状なのだ。
内村直尚・久留米大教授(精神神経科)が、35〜59歳の男女勤労者ら延べ1万7696人を対象にアンケート調査を行ったところ、4人に1人が不眠で悩んだ経験を持っていることがわかった。「寝付きが悪い」「眠りが浅い」「朝早く起きてしまう」――。生活の夜型・24時間化、ストレス社会化などから、日本人の睡眠時間は40年前に比べて約1時間減少し、何らかの睡眠上の問題を抱える人は増えつつあるとされる。
睡眠改善薬が初めて薬局で買えるようになったのは、2003年4月。発売直後から睡眠に問題を抱える人たちが飛びついた。
矢野経済研究所によると、市販薬を含む睡眠薬の年間市場は04年度で649億円。10年度に推計1220億円と倍増し、12年度には1450億円まで伸びると見ている(06年時点の推計値)。
これについて、同研究所では、「睡眠時無呼吸症候群による居眠り運転が社会問題となり、運転手に睡眠検査を義務づける公共輸送機関も増えるなど不眠への意識が高まっている。市販の睡眠薬も気軽に買える時代になり、今後も需要は伸び続けるだろう」と指摘する。
一方、メタボリック症候群とその予備軍は全国で1900万人といわれる。「不眠でメタボ」な人がどのぐらいいるかは、不明だが、ある専門家は推計600万人近くではという。
不眠で間食体重140キロに
40歳代の企業の管理職、ユミコさんの場合、さらに事情は深刻だ。
連日の激務で、休日もなきが如し。ベッドに入っても緊張が解けずに3時間程度しか眠れず、何年間も熟睡感がない。朝から頭痛に悩み、一日中眠いが、責任ある立場で仮眠を取る余裕もない。
そこで、眠気覚ましのため、始終飲食物を口に入れるようになった。「濃いコーヒーに紅茶、せんべいやチョコなどの菓子類、食べるのをやめたら眠ってしまいそうだ」という。ストレス解消にもなる。
夜は宴席もあり、深夜に帰宅後は軽食を取る。運動する時間的余裕もなく、体重は5年間で91キロから140キロに増えた。
愛知医科大学病院の睡眠医療センターで検査入院すると、重度の睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断された。SASは「不眠」と「メタボ」の典型例の一つ。SASの2人に1人はメタボと言われる。
終夜睡眠ポリグラフ検査のデータを目視解析する臨床検査技師(愛知医科大病院で)
SASは、大きないびき、昼間の強い眠気、倦怠感などが特徴で、高血圧や不整脈などの合併症を起こすこともある。眠っているときに繰り返し呼吸が止まり、その度に脳が起きて呼吸するよう命令するため、熟睡できない睡眠障害の一つだ。
推定患者数は約300万人。睡眠中に起こるSASは自覚しにくいが、大いびき、強い眠気、そしてメタボの合併はSASの3大徴候である。
ユミコさんの場合、1時間で131回も呼吸が止まっていた。太りすぎが原因で、のどの筋肉が気道をふさぐ形になっていたのだ。
「眠気を払うため、あるいはストレス解消のため過食してしまうのは、広い意味での摂食障害の一つとも言える」
治療にあたった日本睡眠学会副理事長の塩見利明・愛知医科大教授は、そう話す。
山陽新幹線運転士が03年2月に居眠りしたまま、最高時速約270キロで31キロ走行したトラブルがあり、この運転士がSASで注目を浴び始めた。その後も、山口県沖の周防灘で05年7月、広島県の貨物船が液化ガス船と衝突し、重油が流出した事故でも、事故原因は、航行中に見張りをしていた貨物船1等航海士がSASだったという。
「睡眠不足」と「生活習慣病」。このどちらもが、もう一方の症状を呼び込んで健康を害しやすくなる。
兼板佳孝・日大准教授(公衆衛生学)は、2万1693人分の職場健診データから、不眠とメタボの“双子関係”を初めて明らかにした。
相互に健康悪化招く悪循環
兼板准教授は、1999年にBMIが25未満で肥満ではなかった人の99年と06年の健康診断データを比較調査した。
その結果、両健診で5時間以上眠っている場合を「基準」とした場合、両健診とも短時間睡眠(5時間未満)だった人は1・36倍、7年後に5時間未満に減少した人は1・33倍、肥満になりやすかった。
高血糖の発症についても、両健診ともに短時間睡眠であった人は、「基準」の人より1・27倍なりやすいことがわかった。動脈硬化の発症に関連する高トリグリセライド血症(脂質異常)も、99年に5時間以上眠っていて06年に短時間睡眠になった人は、基準の人より1・42倍なりやすかった。
睡眠時間と血糖値、血清トリグリセライド(中性脂肪)の数値の関係は、睡眠6〜8時間を底とするU字型を描き、血清HDL(善玉)コレステロール値は逆に山型となる。メタボから睡眠時間を見る限り、長すぎても短すぎても好ましくなく、ほどほどが良いことが推測される。
兼板准教授は、「短い睡眠時間は、肥満、糖尿病、高トリグリセライド血症といった生活習慣病を発症する危険因子となり、逆に肥満も短時間睡眠の危険因子となる。相互に悪循環を招いて病状が悪化していく可能性がある」と指摘する。過眠(睡眠9時間以上)の場合も、データ上は生活習慣病との関連性が見られる。
内村教授は、「起きている時間が短いと身体の活動性が下がり、代謝も悪くなる結果、二次的に肥満になることが考えられる。SAS、うつ、精神疾患の人も長く眠る傾向がある」と見ている。
SASについても、
「太ると舌は霜降りの牛タン状態になり、仰向けに眠っているとき、気道をふさいでしまう。日本人は下あごが小さく、気道が狭い人が多い。40歳を過ぎると、あごの筋肉がゆるみ、口を開けて眠ると、気道の直径が半分になる」
と説明する。肥満を治せば、治るか症状が軽快する。
メタボリックシンドロームは、肥満に加え、糖尿病、脂質異常症、高血圧のうち二つそろった場合、そうと見なされる。なぜ、不眠とメタボが関連するのか。別の角度からも、見ていきたい。
グラフは、この「メタボ」と「不眠」の双子が、どれほど恐ろしいかをわかりやすく示した図だ。

不眠はメタボどころか万病の元だった
内村教授が、06年12月に行った第3回調査(有効回答者数5997人、平均年齢44・8歳)では、不眠で悩んだ経験のある人は1668人(28%)で、このうち、メタボ(生活習慣病)だった人の割合は57%に上った。不眠ではない4329人(72%)のうち、メタボだった人は50%とやや少なかった。
一方、メタボの人3092人(52%)のうち、不眠に悩んだ経験のある人は31%。メタボではない人2905人(48%)中、不眠だった25%を上回った。
うつの人285人の場合、メタボが58%もおり、強い相関性がうかがえた。さらに不眠でうつだった人206人の場合は、自殺を考えた経験がある人が26%に上った。
睡眠と密接な関係がある「夜間頻尿」を見てみると、メタボの3092人のうち、2割が睡眠中に2回以上トイレに行く「夜間頻尿」だった。夜間頻尿の回数が増えれば睡眠の質が悪くなるうえ、再び寝付けなくなることもある。不眠とメタボは、症状が複合的に悪化することがわかる。
メタボ同様、不眠も万病の元なのだ。
不眠の経済損失年3兆5000億円
メタボな人が健康を取り戻すのも、SASを解消するにも、何より重要なのは、肥満解消である。
これは決して個人の問題ではない。前出の輸送機関の運転士らの例を見ても明らかなように、問題を放置すれば、重大な労働災害、交通事故につながりかねない問題なのだ。
内山真・日大教授(精神医学)の調査によると、不眠による交通事故や生産性の低下から生じる日本の経済損失は、年間で推計3兆4694億円に上る。
世界を見渡せば、チェルノブイリやスリーマイル島の原発事故、スペースシャトル「チャレンジャー号」の爆発事故も、作業関係者の睡眠不足が原因の一つになったとされる。
が、ダイエットに励んだ経験のある人なら誰でも経験があるはずだが、食欲を抑えるのは非常に難しい。無理やり我慢すればストレスがたまる。無理なダイエットは健康を害し、結果的にリバウンドする。
それに加えて、睡眠不足だと減量のハードルが一層高くなる。内山教授によると、睡眠不足になると、満腹感を与えて食欲を抑制するホルモン「レプチン」の血中濃度が下がる一方、食欲を増進させるホルモン「グレリン」の血中濃度が上がる。
いずれも摂食行為を制御する重要な因子だ。グレリンは99年に日本人研究者が発見し、“腹ぺこホルモン”の異名もあり、不眠症の人の減量を困難にさせてしまう。
“双子”の死亡因子である不眠とメタボ。アリ地獄に陥れば、健常体を取り戻すのは容易ではない。個人のそしてニッポン社会が、心と体の健康を保つために、「睡眠」が何より大切なのである。
(文中カタカナ名は仮名)

ドクター ご紹介 - http://kanja.ds-pharma.jp/health/yotsu/doctor/078/index.htmlから転載







腰痛の発生頻度や原因について教えてください。
上半身の重さは体重の約70%といわれています。その重さを支えているのが腰椎です。腰椎には椎体という骨の部分と椎間板という骨と骨の間に入っている部分があります。椎体は機械的な負荷により変形が進行し、また骨粗鬆症の進行とともに脆くなっていきます。椎間板も年齢とともに変性していきます。驚くことにこの変性は10歳の子供たちのすでに9%に起こっていると報告されています。治療を要する腰痛の発生頻度の調査では20歳代以上の年齢層ではほぼ同じくらい(40〜65%)で発生していることが報告されています。このような背景から近年、腰痛はもっとも有訴率が高い疾患になっています。大半の腰痛は数日間で治りますが、臀部痛や下肢痛を伴う腰痛は専門的な治療が必要になる場合も多いので注意しましょう。





