記事:共同通信社 提供:共同通信社
【2008年6月25日】 凍傷で小指を失った右足が今もうずく。病気、解雇、借金...。あり地獄の底に落ちたかのような絶望から自殺を決意し、富士山のふもとに広がる冬の青木ケ原樹海をさまよい歩いた。生還後も仕事がなく、先の見えない日々が続く。「まだ、樹海の中にいるようなものかな」。愛知県出身の大沢忠雄(おおさわ・ただお)さん(45)=仮名=はそうつぶやいた。
▽震えながら
心筋梗塞(こうそく)で倒れたのは3年前。命は取り留めたが不整脈のため軽勤務しかできなくなった。昨年6月に約12年間勤めた工場を解雇され、社宅も追い出された。車などで寝泊まりしながらハローワークに通ったが、病気と分かると相手にされない。生活が荒れ、消費者金融に手を出した。借金は150万円余りに膨らみ、追い詰められた。 「おれなんか、生きている価値もないのかな」。11月、手元の30万円のうち20万円を、離れて暮らす70代の母に送り、生まれ故郷に寄ってから樹海に向かった。 所持品はロープにカッターナイフ、焼酎のボトルと少しの食料。携帯電話は土中に埋めた。日が沈むと氷点下になる樹海で手首を切り、震えながら斜面に横たわった。 「頭はからっぽ。『このまま静かに逝(い)きたい』とだけ考えていた」 死に切れず2週間。樹海で倒れているところを地元の警察に保護された。「人間そんなに簡単には死ねないよ。とにかくここへ行きなさい」。署員から電車賃を渡され、「全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会」(東京)に駆け込んだ。
▽死ぬ必要ない
約5カ月入院し、現在は民間の保護施設で暮らす。生活保護は受けられるようになったが、借金を抱え、仕事がない現実は変わらない。「生きていてよかった、とはまだ言えない。体調は不安だけど無理してでも働いて、ここから脱出することが当面の目標です」 全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会で事務局次長を務める吉田豊樹(よしだ・とよき)さん(35)にも、自殺未遂の経験がある。 ヤミ金融からの借金が一時約3000万円に上り、取り立てを苦に首をつったが、意識を失う前にベルトが切れた。テレビで協議会を知り相談。利息の過払い分を一部取り戻すことができた。 「借金の解決は必ずできます!」。協議会は青木ケ原樹海に自殺防止を呼び掛ける看板を設置した。これまで33人が看板を見て相談の電話をかけてきた。いずれも自殺を思いとどまった。 「借金で死ぬ必要はない」と吉田さん。「まずは身近な相談窓口が大切。ただ、借金の問題だけでなく、自立支援など包括的な施策が必要だ」と語気を強めた。
× × ×
警察庁によると、昨年1年間に国内で自殺した人は約3万3000人。1998年以来10年連続で3万人を超えた。生きやすい社会とは何か。命をつなぐ手だてを模索する各地の動きを報告する。
※経済生活問題での自殺
経済生活問題での自殺 警察庁の統計によると2007年に経済生活問題で自殺した人は7318人で、健康問題に次いで2番目に多い。うち「多重債務」は1973人で約90%が男性。「借金の取り立て苦」「自殺による保険金支給」が原因や動機とみられる人も計320人に上る。 |