【8月4日】(メキシコシティ)
国際AIDS学会米国部会が発行したHIV治療の新ガイドラインは、なるべく早い治療の開始を強く求めている。このガイドラインには、新たに承認された薬剤と疾患病態のより深い理解の両方が盛り込まれている。 このガイドラインは、「AIDS 2008:第17回国際AIDS会議」の開始に先立ってメキシコシティで開かれた記者会見で明らかにされ、『Journal of the American Medical Association』8月6日号に掲載されている。 この推奨は「HIV感染の病態発生に、療法を患者個人に合わせるために我々が得てきた最良のエビデンスを組み合わせるという原則の上に成り立っている」とコロンビア大学大学院医学部(ニューヨーク)のScott Hammer, MDが、ガイドラインを開発した委員会を代表して語った。委員会の15名の委員は異なる6カ国から集められてきた。 Hammer博士の話によると、このガイドラインは裕福な国に対して書かれたものだが、「我々が採用した原則は中等度の収入の国でも広く応用できるものであり、最終的にはリソースの乏しい状況にも移すことも理想的だが可能なものである。」最終的な目標は、ウイルスを最大限に抑制して、毒性を最小限にし、簡便性を最大限にすることである。「この目標が達成できれば、服薬順守を促進し、耐性を最小限にすることができるようになる。」 2006年に出た前版以降に承認された薬剤は3つある。マラビロックは、細胞表面にあるCCR5補助受容体を標的にした初めての薬なので、Hammer博士は「闘う手段として非常に重要な追加だ」と評している。ラルテグラビルはインテグラーゼ阻害薬の分類として初めての薬であり、エトラビリンは第2世代の非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)で「NNRTI耐性ウイルスの一部に明瞭な効果がある。」 この2年の間に「強力で持続性があり、今までよりも簡便かつ安全で、(さらには)薬物動態が改良された優れた製剤が登場してきており、服薬順守が強化され、結果として耐性が減少している。それがみな相まって治療の選択肢が増えてきた。それは初期治療だけでなく、もっと重要な2まわり目、3まわり目、4まわり目の治療でもそうである。」 このガイドラインは、CD4細胞数が350/μL未満に下がらないうちであっても、その他になんらかの臨床症候があるならば、これまでよりも早期の段階で抗レトロウイルス療法を開始する方向に積極的に向かっている。 SMART(抗レトロウイルス療法管理戦略)試験を引用して博士は次のように言っている。「HIV複製が未管理(10万コピー/mL以上)なのと、それによる免疫の活性化が、非AIDS性悪性疾患に関連している。実際、それらは心血管系、肝臓、腎臓の多様な疾患の集まりであって、疾患の進行に関係があるHIV疾患とは従来考えられていなかった。」ウイルス学的抑制が不完全な患者は、抑制が完全にできている患者に比べて死亡率、発病率がともに高い。 Hammer博士によれば、「HIVウイルス血症とそれに伴う免疫活性化は、宿主と臓器系とにさまざまな様子で交わっているので」HIV疾患の進行の定義はこれまでまとまりがなかった。 開始する時期
有症状のHIV疾患患者ならばCD4数やウイルス量とは関係なく、無症状の患者ではCD4数が200/μL未満ならば、治療開始を開始するという推奨は以前と変わらなかった。 CD4数が200から350/μLの範囲にある患者への治療開始は、よく熟考した上で個々の患者に応じて決めるべきだと、Hammer博士は言う。「この推奨は単純かつ強力だ。」 これまでのガイドラインでは、治療の開始を考えるべきCD4数を500/μLにしていたが、今回の改訂版では、『特に上限値を設けなかった』と博士は語った。 CD4数が350/μLより多い時は、「ウイルス量が例えば10万コピー/mL以上であったり、1年にCD4数が100以上も急速に減少するなどHIV疾患の進行の速さが窺える場合には」治療開始を強く考慮すべきである。心血管疾患、B型・C型肝炎の同時感染(とその結果としての肝疾患の急速な進行)、HIV関連神経症の発現のリスクが高い場合も、治療開始が必要だと考えられる。 処方の選択
「医師はHIV疾患の状態だけでなく同時に存在するすべての疾患を含めて患者全体を評価することが奨励される」とHammer博士は言う。「すべての患者において、最初の精密検査には耐性検査を含めるべきである。」 耐性ウイルスには感染していない患者への初期処方についての推奨にはほとんど変更がなかった。第一選択は、NNRTIかリトナビル強化プロテアーゼ阻害薬(PI)を基本にして、それにヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬(NRTI)を2つ使用することを組み合わせる方法である。博士によれば、可能な選択肢に関するランダム化比較試験による「エビデンスは豊富」にある。 Hammer博士は、初期処方にダルナビルを含めず、その他のPIへの耐性が発現した患者にとっておくことを奨めている。 アバカビル過剰感受性に関する最近の知見では、ウイルス量が多い(10万コピー/mL以上)患者には有効性が低く、心血管疾患のリスクが高くなる可能性があり、処方にこの薬を使用する際には注意が必要であることが示されている。 NNRTIを用いた第一選択の治療が奏効しない例には、2種類のNRTI薬にリトナビル強化PIを併用して治療する。NRTI変異の有無に応じて、エトラビリンの使用を考慮することも可能である。 PIを用いた処方が奏効しない場合は、「遺伝子学的バリアの高さに応じて」もっと複雑になることがある。早くに捕捉できたならば、NRTI成分を2種類の活性薬に変えるだけで処方を維持できるだろう。しかし、耐性ポイントが蓄積していけば、ダルナビルかチプラナビルを考慮すべきである。 今回の推奨では完全なウイルス抑制がより強調される内容に変更となった。「ラルテグラビルが承認されたことで、多剤耐性HIVの患者でウイルス抑制の達成に向けて大きく前進できた」とHammer博士は言う。 エンファービルタイドは、強い治療を経験した患者群に対する選択肢として重要ではあるものの、毎日の注射に伴う問題と、ラルテグラビルやマラビロックといった他の代替治療法が登場したことによって、その利用は減りつつある。 「治療経験のない患者にはラルテグラビルのほうが優れているようだ」と博士は言う。「このまま行けば、既存のクラスの薬剤がインテグラーゼ阻害薬に置き換わるのかという疑問があげられている。それについて答えられる段階にはまだきていないと私は思う。」現行の第一選択処方は優れており、使用が簡単であるので、一部の薬剤は既存の薬剤に耐性を生じた患者にとっておくという考え方がまだ支配的だ。 広がる適用範囲
Hammer博士は、ガイドラインのこうした変更によって治療で便益があると考えられる「適格患者のグループが顕著に増加」すると確信している。「米国で言えば、2、30万人増えることに該当するだろう。」 上記のガイドラインを世界のあまり裕福でない地域に適用を広げていくことには、精密な診断装置と継続処方のコストの問題が障壁となる。博士によれば、「その懸隔は広い。モニターする方法だけに留まらない。ジェネリックの定用量のNNRTI併用による第一選択処方を、リトナビル強化プロテアーゼ阻害薬の処方に変えるだけで、米国やヨーロッパ以外の大半の国では費用が4倍から6倍に跳ね上がるのだ。」 上記のガイドラインでは初期治療の決定において、これまで非HIV性だとされていた要因への注目を強めていることから、Medscape HIVはHammer博士に、今回の新しいパラダイムにおけるHIV専門家の役割とは何かを尋ねてみた。 「HIVは医師を謙虚にさせる存在だ」と博士は開口一番述べた。「複雑な患者の治療にあたるには複数の分野の専門家が必要である。さらに、情報の収集、薬剤耐性情報の解釈、処方の選択を行うにはHIVの専門家が必要だ。方針決定はまだ患者個人に合わせて行われている。(CD4数が)350以上ある患者は全員治療すべきだというわけではない。同時にある医学的問題を考慮したうえで、決定するということだ。」
AIDS 2008: XVII International AIDS Conference. Antiretroviral Treatment of Adult HIV Infection, 2008 Recommendations of the International AIDS Society–USA Panel. Presented August 3, 2008.
JAMA. 2008;300:555-570. |