2009/1/6 がんのリスク・マネジメント:(19)肥満とがん:国際的視点から 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(19)肥満とがん:国際的視点から
2009年1月6日 毎日らいふ
肥満とがんとの関係ですが、国際的な評価(WCRF/AICR、2007年)(図)では、肥満に関連するがんとして、食道がん(腺がん)、大腸がん、腎がん、膵臓がん、子宮体がん、乳がん(閉経後)が挙げられています。さらに、胆嚢がんもおそらく確実と判定されています。
肥満とがんとの関連では、さまざまなメカニズムによるリスク上昇が考えられています。脂肪組織から放出される女性ホルモンのエストロゲン(子宮体がん、閉経後乳がん)、インスリン抵抗性により生じる高インスリン血症や遊離型インスリン様増殖因子の持続的増加(結腸がんなど)、胃酸の胃−食道逆流(食道腺がん)、あるいは、局所の慢性炎症(肝がんなど)などがあります。
さらに、BMIだけではなく、腹囲やウエスト・ヒップ比など内臓脂肪量の指標を用いることにより、病気のリスクをより正確に予測できるとの報告がいくつか出ています。このような研究はまだ多くはないのですが、国際的な評価(WCRF/AICR、2007年)では、内臓脂肪という肥満をより掘り下げた観点から、大腸がんについては確実に、膵臓がん、乳がん(閉経後)、子宮体がんについてはおそらく確実にリスクを上げると判定されています(図)。
さて、肥満でリスクが高くなるこれらのがんの多くは、日本にはもともと少ないけれども戦後増加傾向にあった、いわゆる欧米型のがんとして知られています。どちらにしても、がんの原因なのだから肥満は健康に悪いと言えそうですが、そう単純には割り切れない問題もあります。
肥満という体形は、体重と身長のバランスで決まります。客観的にその目安を示す肥満指数(BMI)を算出するための式があって、体重(kg)を身長(m)で2回割ります。ただし、やせているか太っているかという体形は、人と比べるからそうなるのであって、どの集団の中にいるかによって変わります。日本人は、欧米人に比べ、やせている人が多い集団と言えるでしょう。その中で太っていることは、国際的には必ずしも太りすぎていることを意味するとは限りません。
そもそも肥満の割合が多い国では、そのコントロールが重要な課題となります。米国成人のBMIが25、30を超える割合は(2003〜04年)、それぞれ男性71%、31%、女性62%、33%というのが現状です。肥満が3割を超え、かつ、肥満に関連するがんの頻度が高くなっています。その結果、米国におけるがん死亡の15〜20%が過体重・肥満に起因するという推計もあります 。英国や他の欧米諸国でも同様な現状であり、このような社会においては、肥満対策は、がん対策における効果的かつ優先度の高い施策となります。肥満解消は、禁煙と同じように、努力次第で達成することができるのが前提なので、集中的に指導されることになり、世間の風潮も高まります。
それに対し、日本のデータでは、15歳以上のBMIが25、30を超える割合は、それぞれ、男性27%、3%、女性20%、3%であり、米国とはかなり様相が異なります。また、ここ30年間のBMIが25を超える国民の割合は、男性では増加傾向にありますが、女性では横ばいから近年は減少傾向にあります。そして、肥満に関連するがんの頻度がもともと低いので、がん予防という観点からは肥満のコントロールにそれほど大きな効果は期待できません。
WHOでは、2型糖尿病リスクと循環器系疾患(心筋梗塞や脳卒中など)リスクを反映させ、その高リスク群を肥満と定義しました。その国際基準では、BMI 25以上が過体重、30以上が肥満とされます。日本では欧米に比べ肥満の基準が低く設定されています。すなわち、肥満指数25以上が、一般に肥満と呼ばれます。肥満がベースにあって、肥満を1つの原因とする糖尿病などの病気がある場合には、肥満そのものが「肥満症」として治療の対象になります。また、この流れがメタボリック・シンドロームに至り、日本独自の腹囲値を中心とした診断基準となっていることはご存じのとおりです。腹囲を用いているのは、内臓脂肪の量を反映した簡便な指標であり、メタボリック・シンドロームの発生には、皮下脂肪や筋肉・骨などを除いた肥満が重要との考えに基づいたものです。
肥満の基準が国によってまちまちで、特にアジア諸国で低い基準が採用されている理由として、同じBMIでもアジア人では体脂肪率が高い人が多く、また2型糖尿病のリスクが高いことが挙げられます。やせればやせるほどリスクが下がるような疾患について考えれば、確かに太るのは悪いことのように見えます。その一方で、栄養不足でやせている人でリスクが高い病気もあるのです。
今のところ、糖尿病や高血圧などの病気がなければ、中年期以降、男性はBMI 27を超さない21を下まわらない、女性は25を超さない19を下まわらない程度を保つように心がけるのが良いのではないかと考えています。特に男性については、糖尿病や循環器疾患を集中的にターゲットにした従来の提案とは、少々異なるゾーンに落ち着きました。どうしてそうなったのか、次回はその具体的なエビデンスを示します。
◇津金 昌一郎(つがね・しょういちろう)
国立がんセンターがん予防・検診研究センターの予防研究部長。1981年慶應義塾大学医学部卒業、85年同大学大学院修了(医学博士)、03年から現職。主な研究分野はがんの疫学研究で、人集団を対象に、様々な要因と病気の関係を検証しながら予防法を探っている。「多目的コホート研究」という大規模長期追跡調査や、国内の研究を要約・評価して確かな予防法を提示する「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」などの研究班を率いる。「がんになる人ならない人」(講談社ブルーバックス)などの著書がある。
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2008/12/16 がんのリスク・マネジメント:(18)運動が先かがんが先か 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(18)運動が先かがんが先か
2008年12月16日 毎日らいふ
前回、我々のコホート研究の結果から、1日の身体活動量の最も多かったグループでは最も少なかったグループに比べて男性で13%、女性で16%ほどがんのリスクが低下したということをお伝えしました。肥満の割合が多い欧米での研究に限らず、もともと太っているわけではない人の多い日本人のような集団でも、やはり運動にはがん予防効果があるという結果でした。そして、狭い意味の運動(エクササイズやスポーツ)というよりも、むしろ日常の身体活動量を増やすことにがん予防の可能性を見いだしました。
ところで、私たちには、元気な人というのは身体活動量が多いものであるという、一種の先入観があります。誰が見ても病気になりそうもない、活発で快活な人がいるせいでしょう。元気だからエクササイズや力仕事ができて、だからそういう人にはがんになる人が少ないのだと言われると、もっとものような気がします。逆に、がんと診断されていなくても、体のどこかにがんが潜んでいるような状態では、体調が悪くなり活動的でなくなるとも言えるでしょう。それを、ひとからげに身体活動量で分析すると、多い人ががんになりにくく、少ない人はがんになりやすいということになります。何のことはない、結果から原因を見ているだけではないでしょうか。
原因と結果の因果関係を調べるときには、時間の流れとして、原因から結果を見なくてはならないのに、逆になっています。こういう状況を、疫学研究では「因果の逆転」と言います。他の関連についても、同様の問題が生じることがあります。それを防ぐために、まず、基本としてがんや病気になっていない時に身体活動量についてのデータをとるようにします。さらに、解析の段階で、最初の何年間かのうちに発生したがんを除いたデータについて調べます。前回紹介した研究では、3年以内にがんになった人を除いた場合、予想どおり、少し予防効果は薄れてはいましたが、それでもやはり、除かない場合と同じような予防効果は認められました。
疫学研究では、因果の逆転が指摘されかねない関連については、必ずそのような分析を追加し、依然として同じ傾向が見られるかどうかを確認します。それでも、結果への影響が非常に長く残る場合などは、完全に否定しきれない可能性もあります。ただし、運動については、インスリン抵抗性改善による特定のがん予防のメカニズムがある程度はっきりと示されていることや、世界中の疫学研究で同様の結果が示されていることもあり、がん予防効果は確実であるとされています。
では、がん予防のために運動するとすれば、どの程度の強さや時間を目安にすれば良いのでしょうか。American Institute for Cancer Research(AICR)とWorld Cancer Research Fund(WCRF)は、まず“日常生活の中で活動的になる”ことを勧めています。具体的に、「中程度の身体活動(速歩き相当)を仕事や移動、家事、レジャーなどに組み込み、毎日少なくとも30分は行う。運動に慣れてきたら、時間や強度を増すとさらに利益が期待できるので、中等度の身体活動を毎日少なくとも60分、またはもっと激しい運動を少なくとも30分行う。テレビを見る習慣など、座っていることになる時間を制限する」としています。また、我々も、「現状において日本人に推奨できるがん予防法」の1項目として、「定期的な運動の継続を。例えば、ほぼ毎日合計60分程度の歩行などの適度な運動、週に1回程度は汗をかくような運動」を提案しています。もちろん、仕事などで普段から相当なエネルギーを消費しているような人は、さらに運動を加える必要はありません。
総合的な健康のためにも、身体活動量を増やすことには効果が認められます。我々の研究では、寿命前の死亡リスクとの関連でも、身体活動量が多いグループでリスクが低いことが示されました(図)。
身体活動の予防効果は、がんよりもむしろ糖尿病や循環器系疾患の分野ではっきりと示されています。米スポーツ医学会・心臓協会(ACSM AHA)が2007年に改訂したガイドラインでは、「18〜65歳までの健康な人は、活動的な生活習慣を保つべきである」から始まる8つの項目を挙げ、運動を広く、強く勧めています。しかも、かなり細かく指示してありますので、参考のためにお示しします(表)。
そうは言っても、運動さえしていれば何も心配ないということではありません。まず事故や怪我など十分安全に配慮して、無理のないスケジュールや強さで、豪雨や猛暑の日は休むなど適当に行うことが大切です。
◇津金 昌一郎(つがね・しょういちろう)
国立がんセンターがん予防・検診研究センターの予防研究部長。1981年慶應義塾大学医学部卒業、85年同大学大学院修了(医学博士)、03年から現職。主な研究分野はがんの疫学研究で、人集団を対象に、様々な要因と病気の関係を検証しながら予防法を探っている。「多目的コホート研究」という大規模長期追跡調査や、国内の研究を要約・評価して確かな予防法を提示する「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」などの研究班を率いる。「がんになる人ならない人」(講談社ブルーバックス)などの著書がある。
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2008/12/2 がんのリスク・マネジメント:(17)運動はがんを予防するのか 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(17)運動はがんを予防するのか
2008年12月2日 毎日らいふ
野菜・果物によるがん予防効果が、疫学研究からは意外に見えにくいということは、すでにお伝えしたとおりです。一方、運動*については、その定義や量の測定が野菜・果物以上に難しいのではないかと思われたものの、意外なほどコンスタントにがん予防効果が示されています。国際的な評価では、運動は結腸がんを予防するのは確実とされています。
*安静時よりも多くのエネルギー消費を伴う身体の状態、すなわち、身体活動(physical activity)をここでは「運動」と表す。仕事・通勤・家事・趣味などの日常生活における生活活動と余暇時に行う運動の双方を含めた「身体活動量」のことである。
運動については、肥満の解消以外にも、免疫機能の増強、便の腸内通過時間の短縮、胆汁酸代謝への影響などのメカニズムが考えられていますが、そのほかにインスリン抵抗性との関係が注目されています。
インスリンは、食事として体内に取り込まれた糖分を細胞に取り込むために、膵臓から分泌されるホルモンです。食生活の乱れや運動不足などが続きインスリンがうまく働かなくなると、糖尿病のリスクが高くなることが知られています。それと同時に、高インスリン血症やIGF-I(インスリン様成長因子1)の増加が生じ、これが結腸や肝臓、膵臓などの部位における腫瘍細胞の増殖を刺激して、発がんに関与すると推察されます。したがって、運動によってインスリン抵抗性を改善すれば、関連するがんのリスクも低下することが期待されます。
運動をテーマにする疫学研究では、大勢の人のデータを横ならびにして比べなくてはなりません。これが喫煙についてなら、「たばこを吸っている・吸っていたがやめた・吸ったことがない」の3つのグループに分けることができます。食事や運動については、その多少について明確な分かれ目があるわけではないので、対象者のデータを横ならびにして、少ない順に3つとか5つとかのグループに、同じ人数になるように分けます。
例えば野菜・果物などの食品がテーマの場合は、どの量をどれくらい頻繁に食べているかを掛け算して、1週間あたりの量を出し、順番に並べれば良いでしょう。各栄養素なら、さらに各食品を栄養素に分解し、該当分を足し合わせることが必要になります。ところが、運動量の測り方には、今のところこれという基準があるわけではないので、どういう種類の、どれくらいの運動が良いのかはまだ詳しく分かっていません。
それぞれの研究は、仕事での身体活動量、余暇の運動習慣、あるいは、1日の歩行時間などを比べて、それぞれ運動量でリスクを比べています。いずれにしても、だいたい運動量が増えれば増えるほど良い(リスクが低い)という傾向が見られます。
我々のコホート研究では、45〜74歳の男女約8万人に対し、1日に仕事を含めて体を動かす時間をたずねました。具体的には、「筋肉労働や激しいスポーツをしている・座っている・歩いたり立ったりしている」時間について、また平均的な睡眠時間についてもお答えいただきました。それらのデータを用いて、各活動の強さを表すMET(Metabolic equivalent:運動強度指数)にその時間を掛け合わせた「METs・時間」スコアを出しました。さらに、その値を足し算することにより、対象者1人1人の1日当たりの平均的な身体活動量を求めました。この簡単なアンケートで求めた値を、一部の対象者に異なる季節で2回お願いした4日間の身体活動記録から計算した測定値と比較すると、まあまあの相関が得られました。したがって、大勢の対象者をその身体活動量により4グループ程度に分類するのには大きな支障はないものと考えています。
その集団を約8年追跡調査し、男性2,704人、女性1,630人、合計4,334人が何らかのがんと診断されました。グループによってがんにかかるリスクがどのように変わるかを調べると、男女とも、身体活動量が多い群ほどリスクが低下していました(図)。身体活動量が最も小さかったグループと比較した場合、最も大きかったグループのがんにかかるリスクは、男性で0.87倍、女性で0.84倍でした。さらに部位別には、男性では特に結腸がん・肝がん・膵がんで、女性では胃がんで、身体活動とがんの関連がよく観察されました。身体活動量のグループ分けが、完全には出来ていないことを考慮に入れれば、実際のリスクの低下は、もう少し大きいかもしれません。
次回は、今回の結果と併せ、運動とがんについてもう少し詳しく掘り下げてみましょう。
◇津金 昌一郎(つがね・しょういちろう)
国立がんセンターがん予防・検診研究センターの予防研究部長。1981年慶應義塾大学医学部卒業、85年同大学大学院修了(医学博士)、03年から現職。主な研究分野はがんの疫学研究で、人集団を対象に、様々な要因と病気の関係を検証しながら予防法を探っている。「多目的コホート研究」という大規模長期追跡調査や、国内の研究を要約・評価して確かな予防法を提示する「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」などの研究班を率いる。「がんになる人ならない人」(講談社ブルーバックス)などの著書がある。
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2008/11/19 がんのリスク・マネジメント:(16)野菜・果物とがん:食物繊維とβ-カロテン 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(16)野菜・果物とがん:食物繊維とβ-カロテン
2008年11月18日 毎日らいふ
野菜と果物が健康に良いといわれる理由の1つに、食物繊維があります。食物繊維には、グルコースやコレステロールの吸収を抑えることによる糖尿病や心疾患の予防効果があります。それに加えて、便容積を増大させ、排便を促進し、発がん物質が腸管と接触する時間を短くする、あるいは、腸内細菌叢を変化させ2次胆汁酸などの産生を抑えるなどによる大腸がん予防効果が期待されます。
食物繊維と大腸がんとの関連はイメージ的にもわかりやすいためか、広く知られています。この仮説が、食物繊維の豊富なアフリカ人の便の量が多く形状が柔らかいことを観察したヨーロッパ人医師の報告により唱えられたのも有名です。しかしながら、近年の欧米のコホート研究の結果では、予防効果が認められた報告もあれば、認められなかったとする報告もあり混沌としているのが現状であることは、まだそれほど知られている話ではありません。研究結果の分析に当たって、そもそも何を食物繊維に含めるべきかという議論もあります。世界保健機関(WHO)では、食物繊維は植物の細胞壁に由来する多糖類に限定し、難消化性のデンプンやオリゴ糖とは区別して考えようと提唱しています。
それはそうと、過去最大級のエビデンスとして、2006年に、欧米の13のコホート研究を統合した73万人の解析結果が報告されました。その結果、食物繊維の予防効果は全体としては認められませんでした。しかしながら、1日10g未満と極端に少ない量しか摂取していない約1割の人たちでは、リスクが上昇したことが示されています(図左側)。
日本人約9万人を約10年追跡した多目的コホート研究でも、食物繊維の摂取量と大腸がんリスクの間に、全体としてはっきりとした量とリスクの関連はみられませんでした。ただし、女性については、少ない方から数えて全体の15分の1という最少グループの大腸がんリスクは、多い方から数えて5分の1の最多摂取量のグループの約2倍という結果でした(図右側)。つまり、食物繊維摂取量の極端に少ないグループ(平均6g/日程度)では大腸がんリスクが高くなるという、欧州の統合研究と同様の知見が得られました。
このことから、大腸がん予防のためには、ある程度の量を摂っていれば十分であり、それ以上食べても予防効果は変わらないという可能性が高いと考えています。
最後に、野菜・果物にがん予防効果があるとして、その有効成分を取り出して実際に応用しようという試みについて述べます。
世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)による「食事、栄養、身体活動とがん予防の世界評価」の2007年の改訂では、食事に含まれる栄養素とは別に、サプリメントを用いた無作為化対照試験の結果を反映した評価が行われています。その1つとして、β-カロテンが肺がんリスクを上げるのは確実という評価になっています。特に、欧米の喫煙者を対象にβ-カロテンの肺がん予防効果を期待した2つの研究で、1日20mgや30mgという食事からは摂取できないほどの量を投与した結果、逆に肺がんリスクが高くなったというエビデンスに基づいています。
この他、β-カロテンのサプリメントには、前立腺がんと皮膚がん予防効果が期待されていました。しかしながら、その最終的な確認となる質の高い試験が数回繰り返された結果、どちらのリスクにもそれほど影響しないという結論を得ています。
メカニズムや動物実験のデータなどからは、野菜・果物の特定の成分にがん予防効果を期待するのに十分な結果が得られていました。しかしながら、多ければ多いほど良いとするエビデンスは限られていて、どれか1つの成分、あるいはサプリメントを勧める科学的根拠は、現状において十分とは言えません。
その上、前回述べたように、野菜・果物をトータルにとらえて、その多少によるがんの発生リスクを比べても、ほとんど差は認められませんでした。したがって、野菜・果物摂取によるがん予防効果は、たとえあったとしても、それほど大きくはないことが予想されます。
現時点での結論としては、上部消化管がんや循環器疾患の予防効果は大いに期待されるので、がん予防についても不足しない程度の野菜・果物摂取を心がけると良いでしょう。
◇津金 昌一郎(つがね・しょういちろう)
国立がんセンターがん予防・検診研究センターの予防研究部長。1981年慶應義塾大学医学部卒業、85年同大学大学院修了(医学博士)、03年から現職。主な研究分野はがんの疫学研究で、人集団を対象に、様々な要因と病気の関係を検証しながら予防法を探っている。「多目的コホート研究」という大規模長期追跡調査や、国内の研究を要約・評価して確かな予防法を提示する「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」などの研究班を率いる。「がんになる人ならない人」(講談社ブルーバックス)などの著書がある。
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2008/11/6 がんのリスク・マネジメント:(15)野菜・果物とがん:期待される予防効果 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(15)野菜・果物とがん:期待される予防効果
2008年11月4日 毎日らいふ
色彩鮮やかな野菜や果物は、ビタミンやミネラルが豊富で、体の調子を整える食品としての健康的なイメージが定着しています。その成分には、がん予防にも有用と思われる機能が知られているものがあります。
例えば、緑黄色野菜に多く含まれるカロテン、柑橘系果物に豊富なビタミンC、トマトに含まれるリコピンなどは、生体内で発生した活性酸素を消去する抗酸化作用があります。
キャベツやブロッコリーなどのアブラナ科野菜に多く含まれるイソチオシアネートは、体内で発がん物質を解毒する酵素の活性を高める作用があることが知られています。
ほうれん草など緑葉の野菜や果物に多く含まれる葉酸は、DNAの合成に欠かせない成分です。にんにくやタマネギなどのアリウム野菜中のいくつかの成分には、抗酸化作用や発がん物質の生成抑制・解毒促進などの作用があることが知られています。
そうはいっても、がんについては、今日、明日の食事内容が将来の予防に直接結びつくというわけではありませんが、普段から野菜や果物をよく食べている人で、いくつかの、主に上部消化管のがんの予防効果が期待できるという疫学研究からのエビデンスも沢山あります。
世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)による「食事、栄養、身体活動とがん予防の世界評価」の2007年の改訂では、果物については、口腔・咽頭・喉頭、食道、胃、肺のがんに対して、また、野菜(穀類やいも類など、でんぷん質のものを除く)については、口腔・咽頭・喉頭、食道、胃のがんに対してリスクを下げる可能性大と評価されています。
さらにアリウム野菜(胃)、食物繊維(大腸)、にんにく(大腸)、葉酸(膵臓)、カロテノイド(口腔・咽頭・喉頭、肺)、β-カロテン(食道)、ビタミンC(食道)、リコピン(前立腺)についても、可能性大と判定しています。
このように、世界的な機関によるエビデンスの総合評価において、単一の食品や栄養素にまで踏み込んで判定されたのは、がん予防では初めてのことです。大勢の人に一斉に行うアンケート調査から、誰が何の食品をどれくらい摂っているのかという正確なデータを得るのは大変難しいのですが、単一の食品や栄養素について、病気のリスクを分析できるような新しい研究が普及し、ようやくデータが揃ってきたのです。
なお、以上はすべて食事から摂った場合です。サプリメントとして摂った場合の評価は別扱いになっていますので、次回に紹介します。
ひるがえって、多目的コホート研究では、野菜や果物が不足しているグループで胃がんリスクが高いことが示されました。とはいえ、多く食べれば食べるほど予防効果があるというような関係ではありませんでした。
日本人男性に多い食道の扁平上皮がんについては、野菜・果物の摂取量が、1日当たり100g多くなるごとに、11%ずつリスクが下がるというクリアな関係が見られました。この効果は喫煙・大量飲酒者ではさらに大きかったのですが、もともとたばこも吸わずお酒も飲まなければ、このタイプの食道がんになる人はあまりいませんので、やはり禁煙と節酒が先決です(図1)。
一方、大腸がんや肺がんについては、野菜・果物の量は影響していませんでした。さらに、がん全体との関連について調べましたが、野菜・果物のいずれも予防効果は認められませんでした。ただし、果物については、脳卒中・心筋梗塞などの循環器系疾患に対する予防効果が認められました(図2)。
◇津金 昌一郎(つがね・しょういちろう)
国立がんセンターがん予防・検診研究センターの予防研究部長。1981年慶應義塾大学医学部卒業、85年同大学大学院修了(医学博士)、03年から現職。主な研究分野はがんの疫学研究で、人集団を対象に、様々な要因と病気の関係を検証しながら予防法を探っている。「多目的コホート研究」という大規模長期追跡調査や、国内の研究を要約・評価して確かな予防法を提示する「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」などの研究班を率いる。「がんになる人ならない人」(講談社ブルーバックス)などの著書がある。
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2008/11/6 がんのリスク・マネジメント:(14)塩分と胃がん:コホート研究のエビデンス 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(14)塩分と胃がん:コホート研究のエビデンス
2008年10月21日 毎日らいふ
世界の胃がんの地域差や時代的変化に注目すると、塩分摂取との深いかかわりが推察されます。しかし、塩分自体には発がん性がなく、単独で胃がんを発生させることはできないとされています。ただし間接的には、高い塩分濃度により胃粘膜を保護する粘液層が破壊され、胃液による粘膜細胞の傷害を助長したり、炎症が起こりやすくしたりすることにより、発がん物質の作用を増強するメカニズムが考えられています。
そのような環境では、ヘリコバクターピロリ菌の持続感染が起こりやすいということを示す動物実験や疫学研究結果も報告されています。さらに、塩蔵食品の保存過程では、ニトロソ化合物などの発がん物質が多く産生され、それが胃がんのリスクを上げているとも考えられます。
これまでの症例対照研究やコホート研究などの疫学研究結果(エビデンス)をまとめた世界的な評価では、塩や高塩分食品が胃がんリスクを上げるのはほぼ確実とされています。すなわち、塩分摂取量の多い人たちが、胃がんになる確率が高いことを多くの研究が示しています。ただし、食塩そのものの摂取量は、食品についてのアンケート調査からの正確な推定が難しく、また大規模な研究を数多く実施している欧米では胃がんの発生率が低いために、その関連を調べた結果はほとんどありません。日本人のエビデンスに基づいて因果関係の評価を実施している厚生労働省の「生活習慣改善によるがん予防法の開発と評価」研究班では、塩分・塩蔵食品の摂取が胃がんリスクを上げるのは“ほぼ確実”と判定しました。判定材料となった20の研究結果の1つに、コホート研究があります。その内容を少し詳しく見てみましょう。
まず、調査開始時に行った食事調査の結果から、食塩の摂取量を算出し、男女約2万人ずつを摂取量で5つにグループ分けし、その後約10年の間に確認された胃がんのリスクを比較しました。すると、男性では、食塩摂取量が多いグループで明らかに胃がんリスクが高く、最少グループの約2倍でした。女性では、明らかな差は見られませんでした。その理由は、1つには女性では胃がんが少なかったこと(症例数が少ないと、統計学的な分析は難しいのです)、もう1つにはアンケートの結果から食塩の摂取量を、特に女性においては、うまく把握できなかったこと(一部の方で、28日間の食事内容をすべて列挙していただく食事記録と比べた場合の妥当性がいま一つでした)があげられます。
一方、高塩分食品については、塩分濃度が10%程度と非常に高い塩蔵魚卵と塩辛、練りうになどの高塩分食品の摂取頻度を尋ねて、それによって4つにグループ分けして比べると、男女とも、よくとるグループでリスクが2〜3倍高いという結果でした。
そのような食品をよく食べる人は、食塩の総摂取量も高いのかもしれません。それとも、食塩とは独立に、塩分濃度の高い食品特有の作用があるのかもしれません。どちらにしても、日本の食文化とかかわりの深い塩分濃度の高い塩蔵魚介類を控えることは、胃がんのリスクを減らすために、重要であることが確かめられました。
そういうわけで、胃がん予防の観点からは、特に高塩分の食品を減らすことが重要ですが、総合的な食塩の過剰摂取も高血圧と密接に関連し、その結果、脳卒中や心筋梗塞のリスクを高めます。日本の伝統的な食事の良いところを残しつつ、薄味に慣れるよう努力しましょう。毎日必ず塩蔵品を食べる人は、次第に回数を減らす工夫を重ね、週1〜2回程度に抑える必要があるでしょう。
◇津金 昌一郎(つがね・しょういちろう)
国立がんセンターがん予防・検診研究センターの予防研究部長。1981年慶應義塾大学医学部卒業、85年同大学大学院修了(医学博士)、03年から現職。主な研究分野はがんの疫学研究で、人集団を対象に、様々な要因と病気の関係を検証しながら予防法を探っている。「多目的コホート研究」という大規模長期追跡調査や、国内の研究を要約・評価して確かな予防法を提示する「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」などの研究班を率いる。「がんになる人ならない人」(講談社ブルーバックス)などの著書がある。
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2008/10/7 がんのリスク・マネジメント:(13)塩分と胃がん:地域・時代間の相関 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(13)塩分と胃がん:地域・時代間の相関
2008年10月7日 毎日らいふ
塩分と高血圧の関係はよく知られています。南太平洋やアマゾンには塩をほとんど使用しない食事をしている人々がいて、高血圧とは無縁であったという調査から、「塩分と高血圧」という仮説が生まれました。その後さまざまな研究が行われ、現在では高血圧予防のための減塩の重要性が確立しています。日本国内でも、東北地方に脳卒中が多いのは、漬け物や塩蔵魚介類などの塩辛い食事をする習慣があり、高血圧が多いことに起因していると考えられています。
一方、塩分と胃がんの関係についてはあまり知られていないようです。国際的には、日本は韓国と並んで胃がんの発生率が最も高い国です。同時に、日本や韓国の食事には塩分が多いという共通点があります。同じアジアの国でも、タイやインドなど、もっぱら香辛料を多く使うタイプの辛い食事をする習慣の国では、胃がん発生率は高くはありません。
実際に、世界24か国で、地域による差から病気と環境的要因の関連を調べる研究が行われ、胃がん死亡率の国による違いが、1日分の尿に排泄されるナトリウムで見た各地の塩分摂取量と同じ動きをしていることが示されました(図1)。
日本国内を見ても、胃がんは、秋田・山形・新潟などの東北日本海側地域に高い一方、西日本、特に、九州・沖縄では低く、約3倍程度の地域格差が認められています。漬け物に象徴される東北の食事、チャンプルで代表される沖縄の食事をイメージすると、塩分の使用状況が違うのは一目瞭然でしょう。そして実際に、我々が国内5地域で行った調査で、塩分の摂取量が多い地域ほど胃がんの死亡率が高いことを明らかにしています(図2)。
私は、学生時代からのライフワークとして、ブラジル日系人の健康の動向を探り、日本人や他の地域の日系人との差異から原因を考察する研究を継続、発展させています。当初から、関心は食生活を中心とするライフスタイルと病気の関連でした。実際に南米の日系移民を調査で尋ねると、そこで日本各地の固有の食文化と次々に出合うことになり、想像したこともなかったその違いが、遠い異国の地で鮮やかに脳裏に焼きついたのがきっかけでした。
そして、ハワイの日系人では比較的速やかに胃がんが減少したのに対し、ブラジルの日系人ではゆるやかに減少したことを確認しました。ライフスタイルの違いを探ると、ハワイ移民の間では比較的すぐに現地の食生活に様変わりしていましたが、ブラジル移民の間では、みそ汁など日本特有の塩分濃度の高い食品が用いられる食文化が長く残っていたのです。
ところで、世界的に胃がんの発生率は減少しています。欧米では、胃がんは50年前には最も多いがんの1つでしたが、今や珍しいがんです。日本でも、いまだに最も多いがんとはいえ、この連載の第3回で示したように、減り続けています。特に効果的な対策が施されたわけではなく、年月の経過とともに、ただ減っているのです。その理由は、胃がんの発生にかかわる何らかの大きな要因が、世界中で減ってきているからと考えるのが自然でしょう。各家庭に冷蔵庫が普及し、輸送システムが整備されることによって、保存のために食品を塩蔵にする必要が減ってきたという事情ともよく重なっています。
以上のような食生活の違いや変化に着目すると、塩の摂取と胃がんとの関連は偶然ではなさそうです。そうはいっても地域の差から見えてくる結果には、どうしても限界があります。食塩や高塩分の食品が胃がんの発生にどのように影響しているのかのさらなる検討には、個人レベルで塩分や高塩分食品の摂取状況を把握して、胃がん発生リスクとの関係を直接検証するタイプの疫学研究からのエビデンスが必要となります。
◇津金 昌一郎(つがね・しょういちろう)
国立がんセンターがん予防・検診研究センターの予防研究部長。1981年慶應義塾大学医学部卒業、85年同大学大学院修了(医学博士)、03年から現職。主な研究分野はがんの疫学研究で、人集団を対象に、様々な要因と病気の関係を検証しながら予防法を探っている。「多目的コホート研究」という大規模長期追跡調査や、国内の研究を要約・評価して確かな予防法を提示する「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」などの研究班を率いる。「がんになる人ならない人」(講談社ブルーバックス)などの著書がある。
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2008/9/17 がんのリスク・マネジメント:(12)害にならない程度の飲酒とは 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(12)害にならない程度の飲酒とは
2008年9月16日 毎日らいふ
喫煙の場合には、がんだけでなく、健康全般について良い効果というものがことごとく否定されていますので、すっぱりとやめることをお勧めできます。これに対し、飲酒の場合は多少考慮の余地があります。
飲酒はある臓器のがんでは明らかな原因であり、喫煙との相互作用でがん全体のリスクが高くなります。まして日本人は、お酒を飲むと顔が赤くなる体質の人が多く、男性の喫煙率が高いため、欧米人よりも飲酒の影響を受けやすいのではないかと言われています。
この7月に、日本人の飲酒と大腸がんの関係について、複数の研究データを集積して改めて検討し、より信頼性の高い結果を公表しました。欧米では、最近になって飲酒と大腸がんとの関連は確実と見られるようになりましたが、日本人では欧米人以上に、飲酒量当たりのリスクの増え方が大きいことがわかり(図1)、これを受けて、日本国内のがん予防法の開発に関する研究班では、飲酒と大腸がんとの関連の評価を「ほぼ確実」から「確実」へと格上げしました。
しかしながら、飲酒にはメリットがあります。それは、前回少し触れたように、心筋梗塞に対する明らかな予防効果です。日本人には飲酒で顔が赤くなるタイプとならないタイプがありますが、コホート研究では、どちらのタイプでも飲酒による心筋梗塞予防効果が見られました。ただし、日本人には欧米人に比べて心筋梗塞が少ないので、それほど大きい効果は期待できません。
もともとお酒なんて飲まないし飲みたくもないという人には、がん予防にはそのほうが良いですよ、ときっぱりと言えます。しかしながら、飲みたい紳士淑女、つまり、飲酒の心筋梗塞予防効果を聞いてうれしくなる人たちには、いったい、どうバランスをとっていただけば良いのでしょうか。
このような場合、まず頼みになるのが、全死亡を指標とする研究の結果です。寿命前の死亡にはさまざまな病気から事故などの原因がありますが、それらをすべてまとめて、飲酒習慣との関連を見ます。コホート研究では、1週間当たりエタノール換算で150g程度(日本酒では約7合に該当し、1日平均では1合*)までは、男性の死亡リスクが高くはなりませんでしたが、それ以上は量が増えるほどリスクが高くなりました(図2)。この結果からは、飲んでも、1日当たり1合程度まで、ということになります。女性では、飲む人が少なく、かつ、亡くなった方もまだ多くはないために、統計学的な有意差は検出されませんでしたが、男性よりは少量で影響を受ける傾向が見られました。
*日本酒1合は、ビールなら大瓶1本、焼酎や泡盛なら1合の2/3、ウイスキーやブランデーならダブル1杯、ワインならボトル1/3程度に該当。
ところが、飲酒スタイルは人によって異なり、毎日晩酌する人ばかりではありません。機会があるときには沢山飲むけれども、普段は飲まないというスタイルもあります。そこで、1週間に飲む日数で分けて、飲酒量による死亡リスクを検討しました。すると、3日以上飲酒しない日があるグループでは、飲酒量に応じて死亡リスクが高くならないことがわかりました(図3)。つまり、1週間当たりの総摂取量が多くなってしまっても、休肝日を設けることにより、アルコールの悪影響が弱まる効果が期待できるのかもしれません。ただし、このことはコホート研究以外では検討されていませんので、他の研究による確認が必要です。
以上の根拠から、お酒を飲みたい人々のためにあえて提言するならば、週当たりの量は150g(日本酒なら7合)から300g(14合)が望ましいでしょう。そして、毎日飲みたければ1日に1合まで、それ以上飲みたければ、週に3日以上の休肝日を設けて調整するように心がけましょう。もちろん、たばこを吸わないこと、そして飲みたくない人は無理に飲む必要がないことが前提です。
◇津金 昌一郎(つがね・しょういちろう)
国立がんセンターがん予防・検診研究センターの予防研究部長。1981年慶應義塾大学医学部卒業、85年同大学大学院修了(医学博士)、03年から現職。主な研究分野はがんの疫学研究で、人集団を対象に、様々な要因と病気の関係を検証しながら予防法を探っている。「多目的コホート研究」という大規模長期追跡調査や、国内の研究を要約・評価して確かな予防法を提示する「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」などの研究班を率いる。「がんになる人ならない人」(講談社ブルーバックス)などの著書がある。
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2008/9/2 がんのリスク・マネジメント:(11)飲酒はがんの原因なのか 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(11)飲酒はがんの原因なのか
2008年9月2日 毎日JPより転載
たばこと並んで歴史が長く、大人の嗜好品として世界中に広がっている生活習慣といえばお酒です。お酒を飲まない人も飲む人もいます。飲む人の中でも少し嗜む程度の人から毎晩大酒を飲む人までいろいろですし、日本酒やビール、ワイン、焼酎など種類も多様です。
酒は百薬の長と言われ社交のテーブルに欠かせないものである半面、飲酒の程度や場面によってはアルコール中毒や飲酒運転を引き起こし、「酒さえなければ」とも思わせる反社会性を持ちます。
古今東西、酒について一家言を持つ人は絶えず、私も個人的には、食事を楽しむために、料理に合わせるお酒をおろそかにできない性分です。こってりした料理を食べているフランス人に心筋梗塞が少ないのは赤ワインのお陰などという、いわゆるフレンチ・パラドックスの解釈(1992年)を楽しい話題として歓迎しました。
しかしながら、ここではがんリスクとしての飲酒習慣に関する科学的根拠について、私情をはさまずに述べます。飲酒はがんの原因なのでしょうか。
大勢の人を飲酒習慣や量で分けて、がんの発生や死亡のリスクを比較する研究は、欧米を中心に数多く行われています。前回紹介した最近の国際的な評価では、アルコールが直接触れる消化管(口腔・咽頭・喉頭・食道)、アルコールを代謝する肝臓、そして女性ホルモンの影響が大きい乳房のがん、大腸がんのリスクが確実に高くなるとされています。
これらのがんについて、日本国内のがん予防法開発に関する研究班で、2008年7月現在、肝臓、食道、大腸については確実と判定しています。乳がんについてはデータ不十分としました。日本人女性でお酒をたくさん飲む人の割合が低いためにデータがとりにくいこともあり、十分な結果が得られていません。また、口腔・咽頭・喉頭がんについてはまだ評価が行われていませんが、全部位合計については確実としています。
コホート研究では、40〜59歳の男性を対象にがん全体で見た場合、12.5%はエタノールに換算して週300g(日本酒では約14合に該当し、1日平均では2合*)以上の飲酒が原因であると推定しました(図1)。また、飲酒によるがん全体のリスクを喫煙習慣別に解析すると、お酒そのものよりは、たばこを一緒に吸うことによる相乗効果でリスクが高くなっている可能性が示されました(図2)。
*日本酒1合は、ビールなら大瓶1本、焼酎や泡盛なら1合の3分の2、ウイスキーやブランデーならダブル1杯、ワインならボトル3分の1程度に該当。 ところで、飲酒は循環器系疾患ともかかわっています。世界保健機関(WHO)と食糧農業機関(FAO)の報告書では、飲酒によって脳卒中のリスクが確実に上がると判定される一方、少量から適量の飲酒によって心筋梗塞など冠動脈疾患のリスクが確実に下がるとも判定されています。フレンチ・パラドックスは赤ワインに限らず、どのお酒でもオーケーとされているわけです。実際に、われわれのコホート研究でも、飲酒量が増えると出血性の脳卒中のリスクは高くなるけれども、脳梗塞は高くはならず、心筋梗塞のリスクは低くなりました。
がんについては、心筋梗塞のように飲酒のメリットが示されるものは見当たりませんが、少しだけなら、飲んだとしても飲まない人とリスクが変わらないのではないかというゾーンがあります。その場合の適量や飲み方について、次回に論じます。
◇津金 昌一郎(つがね・しょういちろう)
国立がんセンターがん予防・検診研究センターの予防研究部長。1981年慶應義塾大学医学部卒業、85年同大学大学院修了(医学博士)、03年から現職。主な研究分野はがんの疫学研究で、人集団を対象に、様々な要因と病気の関係を検証しながら予防法を探っている。「多目的コホート研究」という大規模長期追跡調査や、国内の研究を要約・評価して確かな予防法を提示する「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」などの研究班を率いる。「がんになる人ならない人」(講談社ブルーバックス)などの著書がある。
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2008/8/19 がんのリスク・マネジメント:(10)食事関連要因とがん:国際的評価の現状 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(10)食事関連要因とがん:国際的評価の現状
2008年8月19日 毎日らいふ
がんが遺伝子の病気であることはよく知られていますが、それを「がんは遺伝する」と読み違えている人がまだ大勢います。そうではなく、ほとんどのがんは、細胞の遺伝子が傷ついて修復されずに悪性化することで起こる病気であり、その原因の多くは生活習慣によるものだと考えられます。
生活習慣のうち、喫煙習慣と並ぶ二大要因が食習慣です。そうは言っても、食事そのものが悪いというわけではありません。ただ1人1人の飲食の繰り返しによる微細な影響の積み重ねがいくつもあり、それを合計するとかなり大きくなることが予想されるのです。
米国ハーバード大学のがん予防センターは、主にヒトを対象とした疫学研究論文(=エビデンス)を総括して、米国人のがん死亡において食事要因が寄与する割合、すなわち、成人期の食習慣や肥満、そして運動不足の改善により、がんの35%が予防可能であると推計しています。日本人では食事内容や体形などの背景が異なりますが、がんの発生に食習慣が深くかかわっていることには違いがないと思われます。
食習慣とがんの関連は把握が難しく、あやふやな情報が先走りしがちです。世界的な機関のいくつかでは、専門家とエビデンスを中心とした科学的根拠を集めて1つ1つの関連を討議し、それぞれ4段階で評価するなどの方法で結果をまとめ、がん予防のための指針を示しています。
これまでに、世界保健機関(WHO)と食糧農業機関(FAO)の合同報告書(2003年)と、世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)の合同報告書(2007年改訂、図)があり、その2つが、世界的に現状でもっとも信頼のおけるものとなっています。
WCRF/AICRの改訂報告書では新しいエビデンスを含めより細かな評価が行われ、次のような指針が示されています。(1)肥満度について:正常な体重の範囲でできるだけやせる、(2)身体活動について:日常生活の中で活動的になる、(3)体重を増やす飲食物について:高カロリー食品や甘い飲み物を制限する、(4)植物性の食事について:植物からできた食品を中心にとる、(5)動物性の食事について:赤身肉(牛、豚、羊などの肉)を制限し、加工肉(ソーセージ、サラミ、ベーコン、ハムなど)を避ける、(6)アルコール飲料について:飲酒を制限する、(7)保存・加工・調理について:塩を制限し、カビのはえた穀物や豆類を避ける、(8)サプリメントについて:食事だけで必要な栄養が取れるようにする。
また、特定の人に向けて、次の2項目の指針を示しています。(1)授乳期の女性に:母は授乳し、子には母乳を飲ませる、(2)がんになった人に:がん予防のための食生活のアドバイスに従う。
もっとも、そこに用いられているエビデンスのほとんどが、欧米先進国で行われた研究の結果です。日本を含むアジア地域のエビデンスは手薄でしたが、1990年前後よりコホート研究を含む数万〜十数万人規模の研究が複数実施され、近年、それらの成果として日本人におけるエビデンスが数多く報告されるようになりました。
次回から、飲食関連の習慣、肥満、身体活動度とがんとの関係について、日本人のエビデンスを中心とする科学的根拠の現状などを紹介します。
◇津金 昌一郎(つがね・しょういちろう)
国立がんセンターがん予防・検診研究センターの予防研究部長。1981年慶應義塾大学医学部卒業、85年同大学大学院修了(医学博士)、03年から現職。主な研究分野はがんの疫学研究で、人集団を対象に、様々な要因と病気の関係を検証しながら予防法を探っている。「多目的コホート研究」という大規模長期追跡調査や、国内の研究を要約・評価して確かな予防法を提示する「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」などの研究班を率いる。「がんになる人ならない人」(講談社ブルーバックス)などの著書がある。
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2008/8/7 がんのリスク・マネジメント:(9)受動喫煙防止のためのたばこ規制とその効果 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(9)受動喫煙防止のためのたばこ規制とその効果
2008年8月5日 毎日らいふ
日本では、たばこのマナー広告をよく見かけます。たばこ対策に真剣に取り組んでいる国では、マナー広告といえども宣伝の一種ですから、禁止されています。しかも、いくらマナーよく吸っても、周囲にいる人の受動喫煙は避けられません。レストランなどでも同じフロアの分煙や換気にあまり意味がないことがわかってきたので、次第に完全禁煙へと移行しつつあります。
飲食店や職場など公共の建物内における全面禁煙は、いまや世界の潮流です。2007年の世界禁煙デー(毎年5月31日)に先駆けて、世界保健機関(WHO)は、すべての加盟国に対し、公共の建物内を全面禁煙とする法律を制定するよう勧告を出しました。その科学的根拠として、受動喫煙ががん・心血管疾患・呼吸器疾患などの原因として多くの成人を寿命前の死に至らしめたり、喘息などの病気の原因として子どもを苦しめたりしていることを示すデータを、権威ある報告書から引用しています。
さらに、実際に屋内全面禁煙などのたばこ規制が早くから行われた国や自治体で、受動喫煙や健康影響がどう変わったのかという調査報告が、専門誌に掲載されるようになりました。禁煙法の施行前後の短期間で、屋内の同じ場所での空気汚染の度合いを測定して比較したものや、ボランティアの尿や唾液の中のニコチン代謝物(コチニン濃度)を測定したものなど、これまでに多数の報告があり、いずれも規制の有効性を示しています。
また、短期間で禁煙法の効果が期待できる心筋梗塞については、入院数や搬送数の明らかな低下が複数報告されています。1つの例として、スコットランドにおける屋内禁煙法施行(2006年3月)の前後で、小学生(平均11.4歳)の唾液中コチニン濃度を調べた研究を紹介します。
まず、両親共に非喫煙者家庭の子どもでは、0.14から0.07ng/mLに半減しています。禁煙法によって喫煙者が家でたばこを吸う量が増え、子どもの受動喫煙の機会が増えてしまうのではないかと危惧されていました。しかしこの研究では、親がたばこを吸う家庭の子どもでも、コチニン濃度が上昇したという証拠はなく、むしろ減少傾向にあることが示されました(図1)。
子どもにとって最大の受動喫煙の場は家庭ですが、非喫煙家庭の子どもでも家庭以外からの影響があり、それが屋内禁煙法で軽減したという事実には重みがあります。成人を対象とした調査でも、家庭に喫煙者のいない非喫煙者のコチニン濃度は0.35から0.18ng/mLに半減したと報告されています(図2)。
最後に、禁煙法による健康面以外への影響に関する科学的評価を紹介します。国際がん研究機関(IARC)は、禁煙政策の効果を科学的証拠に基づいて評価した項目の1つとして、「禁煙政策によってレストラン・バー業界の経済活動が低下しないという十分な根拠がある」と結論しました(2008年7月)。
日本は、受動喫煙の防止措置を含むWHOの「たばこの規制枠組条約」(2005年2月27日発効)に批准しています。したがって、国民が公共の場所においてたばこの煙にさらされることのないように保護する効果的な措置をとる義務があります。
受動喫煙の健康被害に関しては、もはや“示唆されている”、あるいは、“という報告がある”という段階ではなく、科学的にも政治的にも“確実に存在する”ということで決着し、すでに対策に動いているのが世界の状況なのです。
日本でも、「たばこ価格の大幅な値上げ」が議論されるようになりました。実現されれば、喫煙率の大幅な減少につながることでしょう。同様に、「公共の場における喫煙を禁止する法律」が施行されれば、喫煙率減少にさらなる効果が期待できます。すなわち、日本人のがん死亡率減少のために、極めて有効な政策となるでしょう。
◇津金 昌一郎(つがね・しょういちろう)
国立がんセンターがん予防・検診研究センターの予防研究部長。1981年慶應義塾大学医学部卒業、85年同大学大学院修了(医学博士)、03年から現職。主な研究分野はがんの疫学研究で、人集団を対象に、様々な要因と病気の関係を検証しながら予防法を探っている。「多目的コホート研究」という大規模長期追跡調査や、国内の研究を要約・評価して確かな予防法を提示する「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」などの研究班を率いる。「がんになる人ならない人」(講談社ブルーバックス)などの著書がある。
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2008/7/15 がんのリスク・マネジメント:(8)受動喫煙とがん:たばこを吸わない女性への影響 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(8)受動喫煙とがん:たばこを吸わない女性への影響
2008年7月15日 毎日らいふ
たばこを吸う人が自分の健康だけに気を配ればよいかというと、そうではありません。知らず知らずとはいえ、誰かがたばこを吸うことによる身近な人への受動喫煙も、見知らぬ人への受動喫煙も、少なからぬ健康被害を生じていたという科学的根拠があります。
国際がん研究機構(IARC)では、受動喫煙の肺に対する発がん性は確実であるとしています(2004年)。また、カリフォルニア州環境保護庁(EPA)の受動喫煙の健康影響評価報告書では、肺がんに加えて、おもに閉経前の若い女性の乳がんのリスクが高まる可能性が大きいとしています(2005年)。
日本では、男性の喫煙率が高いのに対して女性の喫煙率が低いことから、たばこを吸う夫と吸わない妻の組み合わせが多くなります。たばこを吸う夫と吸わない妻のグループでがんの発生を追跡調査して、たばこを吸わない夫婦の妻のグループと比べると、受動喫煙の有無によってどのような差が生じるのかが浮き彫りになります。
われわれのコホート研究で、肺がんについて調べてみました。40〜69歳のたばこを吸わない女性約2万8000人のうち、夫がたばこを吸う人が約半分、たばこを吸っていたがやめた人と、たばこを吸わない人が約4分の1ずつでした。約13年間の追跡調査で、109人が肺がんと診断されました。その8割以上は、肺腺がんという種類のがんでした。
肺がんは、その組織型によって4種類のがん(扁平上皮がん、腺がん、小細胞がん、大細胞がん)に分類され、非喫煙者には肺の末梢にできる腺がんが多いのに対し、喫煙者では肺の入り口付近にできる扁平上皮がんが多いことが知られています。肺腺がんに限って解析を行ったところ、夫がたばこを吸うグループの発生リスクは、吸わないグループの約2倍高いことがわかりました。
夫の1日当たりの喫煙本数が20本までと20本以上のグループに分けると、たばこを吸わないグループに比べ、20本以上では2.2倍、20本まででは1.7倍、吸っていたがやめた場合は1.5倍でした。夫からの受動喫煙の量が多いほど、たばこを吸わない妻の肺腺がんリスクが高くなるという関係は、はっきりしていました(図)。
次に、研究対象となった女性の肺腺がんのうち、夫の喫煙によって発生率が高くなった部分の割合を算出しました。すると、37%は受動喫煙がなければ起こらなかった、すなわち、受動喫煙が原因であると推定されます。また、われわれのコホート研究では、閉経前のたばこを吸わない女性の乳がんについても、家庭あるいは職場などで受動喫煙を受けていたグループのリスクは、受動喫煙のないグループの2.6倍高かったことを確認しています。
がん予防法の開発に関するわれわれの研究班で提示している予防法の第一項目で「たばこは吸わない」と「他人のたばこの煙を可能な限り避ける」を併記しているのには、以上のような理由があります。
◇津金 昌一郎(つがね・しょういちろう)
国立がんセンターがん予防・検診研究センターの予防研究部長。1981年慶應義塾大学医学部卒業、85年同大学大学院修了(医学博士)、03年から現職。主な研究分野はがんの疫学研究で、人集団を対象に、様々な要因と病気の関係を検証しながら予防法を探っている。「多目的コホート研究」という大規模長期追跡調査や、国内の研究を要約・評価して確かな予防法を提示する「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」などの研究班を率いる。「がんになる人ならない人」(講談社ブルーバックス)などの著書がある。
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2008/7/1 がんのリスク・マネジメント:(7)禁煙のすすめ 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(7)禁煙のすすめ
2008年7月1日 毎日らいふ
がん予防のためには新しい喫煙者を出さないことが重要な課題ですが、現在喫煙なさっている方に禁煙していただくことも大切です。日常の習慣となったたばこをやめるには、強力な動機やはっきりとした意思が必要です。「もう何十年も吸っていて、肺はおそらく真っ黒。いまさら禁煙しても」というわけで、たばこ税による多少の値上げや自動販売機用の認証システムを受容している方もいらっしゃるでしょう。そこで今回は、いつ禁煙しても遅すぎないということを、科学的根拠から説明します。
まず、禁煙後何年くらいでリスクが下がるかが気になります。われわれのコホート研究から、たばこをやめたと答えた男性を、禁煙してからの年数ごとにグループ分けして、その後の肺がんリスクを比較したデータがあります。
たばこをやめてから9年以内の人たちでは、まだ吸わない人の3倍高く、喫煙者の4.5倍よりはいくぶん低いリスクになっていました。それが10〜19年となるとさらに低くなり1.8倍となりました。禁煙した年月がたつほどだんだん低くなり、20年以上禁煙した男性では、ついに、たばこを吸わない人とほぼ同じでした(図1)。このように、長くはかかりますが、禁煙によって確実にがん予防効果が期待できます。また、脳卒中や心筋梗塞などの循環器系疾患では、禁煙後2年以内に効果が期待できるという結果でした。
「20年後なんて、もう手遅れ」という方もいらっしゃるでしょう。本当にそうでしょうか。吸い続けるか、禁煙するかの選択肢は、常に喫煙者の目の前にあります。そして、どの時点でやめるとどのくらい寿命が延びるのかという科学的な証拠もあります。喫煙の健康影響を調べるために、英国で1951年に始まった約4万人の英国人男性医師のコホート研究は、50年後まで追跡調査が続けられ、2004年に、この研究を率いた英国の疫学者ドール博士による最後の論文(博士は翌年、92歳で逝去)が発表されました。
これによると、まず、生涯喫煙者は、一度もたばこを吸ったことがない人よりも10年早死にしています。禁煙者では、やはり25から34歳の早い時期に禁煙した人は、非喫煙者とほぼ同じ寿命をまっとうしています。しかし注目したいのは、35から44歳でやめても9年、45から54歳でやめても6年、55から64歳の遅い時期にやめた人でもまだ3年の寿命を稼げる期待が持てるということです(図2)。やり残したことがある場合、まだ遺していけない人がいる場合、禁煙によって稼いだ晩年の数年は、ある意味で、人生で最も貴重な数年間になるかもしれません。
欧米では、たばこ税の増税や、公共の場での禁煙などのたばこ対策により、著しい禁煙率の増加とたばこ関連死の減少が報告されています。英国人医師コホート研究をはじめとしたさまざまな科学的データの蓄積により、自信をもって、そして喫煙者のためを思って、たばこをやめましょうと呼びかけることができるのです。
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2008/6/17 がんのリスク・マネジメント:(6)喫煙とがん 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(6)喫煙とがん
2008年6月17日 毎日らいふ
今から30年前には家庭・職場・公共の場には灰皿が常備され、喫煙者本人の健康はもちろん、そこにいるたばこを吸わない人の立場などほとんど顧みられていませんでした。現在、諸外国にかなり後れをとってはいるものの、日本でも禁煙のためのさまざまな取り組みがなされています。それはここ数十年で蓄積された、確実な根拠と試算に基づいて推進されているのです。
もし日本で喫煙習慣のある人が減り続けて、たばこを知らない世代が誕生したならば、その世代の男性のがんは、現在よりも30%、年間で約10万人少なくなる見込みです。もともと喫煙習慣を持つ人が少ない女性では4%、約1万人です。
この数字は、われわれのコホート研究の10万人分のデータを、日本のがんの発生数に当てはめて推定したものです。調査開始時、男性の52%が「たばこを吸う」、23%が「吸っていたがやめた」と回答していました。喫煙者では、非喫煙者と比べて、何らかのがんになるリスクが男性1.6倍、女性1.5倍高いことがわかりました。
喫煙者と過去喫煙者で非喫煙者よりもプラスになったがん、すなわち喫煙が原因で過剰に発生したがんの割合は、全体の約30%ということになります(図、非喫煙者の1倍よりも上の部分の面積)。これを、2001年に男性で診断された推定33万のがんに当てはめると10万人分のがんに相当するというわけです。
女性では、たばこを吸うと答えたのは5.9%、やめた人は1.4%しかいませんでした。そうすると喫煙でプラスになったがんの数自体が少なく、女性に発生したがんの約3%を占めるに過ぎません。実際には、日本人女性の喫煙率はもう少し高いので、約4%を占めると推計され、2001年の女性のがん24万のうちの1万人分に相当します。
たばこと強い関連の見られるがんには、鼻・口から喉に至る各器官のがんや食道がん、肺がんがあります。肺がん全体では喫煙者のリスクは4倍程度になります。そのほかにも、胃がん、肝がん、腎がん、子宮頸がん、慢性骨髄性白血病に至るまで、多くのがんが喫煙によりリスクが高くなることは確実とされています。大腸がんや乳がんでも、関連を指摘する研究が多数あります。
たばこの影響をほとんど受けないがんもありますが、がん全体としてとらえると、喫煙者の非喫煙者に対する相対的なリスクは、50%〜60%増になります。これは、われわれのコホート研究からだけでなく、これまでに日本人を対象に行われた複数の研究結果を総合して考えても、ほぼ妥当な値として差し支えないでしょう。
たばこを吸う人も吸わない人もがんになりますが、たばこを吸う人で余分に発生するがんがなくなるとすると、毎年日本で発生するがんのうち、10万人分が減ります。この推定値があればこそ、たばこのない未来図を描くことができるのです。
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2008/6/5 がんのリスク・マネジメント:(5)科学的根拠(複数の研究)に基づく確からしさの判断 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(5)科学的根拠(複数の研究)に基づく確からしさの判断
2008年6月5日 毎日らいふ
私の専門である疫学では、大勢の人を観察して、原因と病気との関連を調べて因果関係を推定します。実際に人間集団における事象(これをエビデンスといいます)から追究すると、答えは必ずしも1つとは限らないのです。実際には人の数だけ答えがあるものを、統計学でまとめて全体の傾向を見て結果を出します。その結果はクロかシロかではなく、クロに近いグレーなのか、白に近いグレーなのかという感じになります。
疫学研究結果が理論どおりにはいかないことがしばしばあります。例えば、野菜には抗酸化作用や食物繊維があるので、野菜をたくさん食べると大腸がんが予防できるだろう、という理論的な筋道は正しそうです。けれども、実際に野菜をたくさん食べる人と少ししか食べない人で、大腸がんの発生率を比べてみても、はっきりとした差が出ません。ですから理論は理論として、「野菜をよく食べるほど大腸がんになりにくい」とか「食物繊維には大腸がん予防効果がある」という記述には科学的根拠が乏しいと言わざるをえません。
科学的な記述は不変という印象がありますが、一つひとつのエビデンスは生活の舞台、すなわち地域や時代によって変わる方がむしろ自然です。最終的には、原因と病気との関係を示すどのレベルのエビデンスがいくつ示され、その違いがどのようなメカニズムで説明できるかが、科学的根拠の鍵となります。
理論的な筋道を実生活に応用するには、確かなエビデンスが必要です。エビデンスを集めて科学的根拠を築くには、理論的な裏打ちが必要なのです。ただし、理論的な裏打ちが乏しくても、確かなエビデンスに基づいた実践は、病気の予防に帰結します。歴史的にも、コレラ菌の存在がわからなくても、井戸を封鎖すれば、コレラを防ぐことができました。また、ビタミンB1の存在がわからなくても、麦飯を与えることにより脚気(かっけ)は防げました。病気の予防は一刻を争う問題であり、確かなエビデンスに対する理論はいずれ裏打ちされます。
科学的根拠の判定には、一つひとつの判断材料となるエビデンスを積み上げ、理論的な裏打ちと合わせて総合的に評価し、研究から予防への橋渡しをする作業が欠かせません。その判定は、有効か否かのいずれかに帰結させることには無理があるので、“確実”“可能性大”“可能性あり”“証拠不十分”など、いくつかの段階にランク分けして示されることになります(表)。
かなり徹底した条件をクリアしないと“確実”とはされず、相反する研究があったり、研究自体の数が少なかったりなど、“確実”と判定するには足りない状況があれば、ランクは下がります。判断材料となる研究結果の質や数が十分ではないことも多く、複数の疫学研究から得られた情報をもとに、動物実験やメカニズムにより足りない部分を埋めていく作業が必要です。
そのような作業を経て、現時点で、がん予防のために日本人に推奨できる生活習慣としては、禁煙、節酒、運動、適正体重の維持、減塩と野菜・果物摂取を強調した偏りのない食習慣、そして、肝炎ウイルス対策が挙げられます。次回からは、一つひとつの予防法について、その科学的根拠と具体的方法を見てみましょう。
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2008/5/20 がんのリスク・マネジメント:(4)がん予防に関する情報:個々の研究の種類と信頼性 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(4)がん予防に関する情報:個々の研究の種類と信頼性
2008年5月20日 毎日らいふ
がん予防情報は、誰もが関心を持つ話題です。広告のキャッチ・レターには、個人的な体験談や権威の話だけに基づく情報がよく使われていますが、科学の枠外なのでここでは触れません。そのほかにも、「この食品が危ない」「この飲料が良い」などというさまざまな情報があふれています。今回は、そうした一つひとつの情報の受けとめ方を考えてみます。
がん予防の科学的な研究方法には、大きく分けて理論やメカニズムがあって細胞や動物を用いた実験で確認されるものと、人間集団を観察して原因と結果の因果関係を探る「疫学研究」と呼ばれるものがあります。
さまざまな事象のメカニズムから、理論的な筋道を立てることができます。例えば、ある種のビタミンには抗酸化作用があり、細胞やマウスを用いた実験で、意図的に操作されたがんの誘発を予防することが示されます。
よって、たくさん摂れば人のがんも予防できるはずだ、という筋道が立つでしょう。ただし、サイズや構造は言うに及ばず、均一なマウス集団と個性豊かな人間集団は質的にも違うものですし、短期間で誘発されたがんと自然にできたがんは同じではありません。そこでさらに、人間集団を対象にした気長な観察と実験的な介入が必要になります。
実際にビタミンをたくさん摂っている人で、ほとんど摂ってない人と比べて、がんの発生率が低いのかどうかを検討する「コホート研究」が次のステップ、そして、ビタミンを投与した人では、投与しなかった人よりがんの発生率が低くなるのかどうかを見極める「無作為化比較試験」が最終的なステップとなります(表)。
疫学研究からの結果は、実際に効果的ながん予防法を考えるときに大変参考になります。その中で最も信頼性の高い研究方法は、無作為化比較試験です。
がん予防分野では、喫煙者など肺がんリスクが高い欧米の男性では高用量のβカロテンに肺がん予防効果がなく、かえってリスクが高くなることや、乳がんのハイリスク女性ではタモキシフェンという薬によりリスクが半減することが示されました。しかし、このようなヒトで実験するタイプの疫学研究は実施が難しく、情報が限られています。そこの部分を、ヒト集団を観察するタイプの疫学研究からの情報が補っています。
その代表が、大規模な対象集団を設け、要因について調査した後に、がんの発生を長期にわたって観察するコホート研究です。しかしながら、ある要因とがん発生との間にみられた関連が、実は見かけ上のもので、本当は第3の要因(交絡要因)によるものだったり、たまたま偶然の結果だったりという可能性を否定できないという限界があります。また、がんの発生には年月がかかるので、結果が出るまで最低10年は待たなくてはなりません。
これに比べ、がんになった患者さんと健康な人たち(対照)との間で過去の要因を調査するという症例対照研究には、結果が早くわかるという利点があります。その一方で、適切な対照の設定が難しく、また、要因について過去にさかのぼって調べなければいけないので、さまざまな偏りが入り込む余地が多く、コホート研究に比べ信頼性が必ずしも高くはありません。
忘れてはならないのは、どんなに信頼性の高い研究でも、その結果はがん予防効果の判断材料の一つだということです。ある要因をコントロールすればがんのリスクを下げられるのかどうかを、議論の余地なく完全に証明することは、単独の研究結果だけでは不可能なのです。
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2008/5/6 がんのリスク・マネジメント:(3)がんのトレンド 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(3)がんのトレンド
2008年5月6日 毎日らいふ
がん全体の年齢調整死亡率は、男女ともに減少傾向にあるものの、がんの部位別に推移を見ると、大きく変化しているのがわかります。男性では、1960年代に最も多かった胃がん死亡率が最近まで一定の減少傾向にある一方、90年代半ばまで増加傾向にあった肺、肝臓、大腸、前立腺がんが近年では横ばいから減少傾向に転じています(図1-1)。
女性では、胃がんが一貫して減少しているのに加えて、子宮、肝臓、直腸のがんの死亡率が80年代まで減少しています。一方で、乳がんが、戦後一貫して増加しているという特徴があります(図1-2)。
がんの死亡率の動向を規定するのは、罹患率と生存率です。男性の胃がんを例として、年齢調整死亡率と罹患率を対比して比較すると、死亡率と罹患率のいずれも減少傾向にあります(図2-1)。すなわち、死亡率の減少の多くが、罹患率の減少によりもたらされていることになります。
次に、女性の子宮がんの例では、80年頃までは死亡率と罹患率が並行して減少しています(図2-2)。すなわち、死亡率減少の多くが罹患率の減少によることになります。しかしながら、それ以降は罹患率がそれほど減っていないのに、死亡率は90年代半ばまで減り続けています。これは、検診による早期発見や治療の進歩により子宮頸がんの生存率が上がったことが寄与しているものと推定されます。
戦後の部位別がんの推移は、子宮がんの例のように、生存率の向上で説明できる部分は多くはなく、いわゆる食をはじめとした生活習慣の欧米化によるものと考えられています。国民栄養調査による戦後の栄養素・食品摂取状況の推移を見ると、動物性脂質やたんぱく質摂取量の推移が、70年代半ばまで増加の一途をたどり、その後、突然に横ばい傾向となっています。戦後増加していたがんの年次推移と約20年のタイムラグで一致しているのが興味深く思われます。
また、運動に関しては、年次推移を把握できるような良い指標はありませんが、交通機関の発達や産業革命などにより、身体活動度が低下していることが推測されます。がん罹患率・死亡率の年次推移を単一の要因で説明するのは困難ですが、戦後の栄養状態の向上と体重増加、運動不足、さらには、喫煙や飲酒習慣などの複合的な要因によるものと推測されます。このように、がんにもトレンドがあるという事実は、がんが予防可能であることを意味します。
病気の問題を考える場合には、まず治療が注目されます。ただし、がんのように治療が困難な病気では、いかに予防するかが重要になります。予防と、検診(早期発見・早期治療)と、治療がそれぞれ進むことによって、がん全体の死亡率が減少することが期待されます。効果的な予防法や早期発見の方法が確立すれば、それは新しい治療法の確立と同じように、がんによる死亡を効果的に減らすことができるはずです。
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2008/4/15 がんのリスク・マネジメント:(2)がんは増えているのか? 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(2)がんは増えているのか?
2008年4月15日 毎日らいふ
現在、日本では人口当たりのがん死亡率(粗死亡率)は一貫して上昇傾向にあります(図1)。日本でがんが増えていると強調したい場合によく使われるグラフです。
ただし、これは、がんになる確率の高い高齢者の人口比率が増加していることが最大の原因です。したがって、高齢化の傾向の影響を除いた場合には、大きく異なります(図2)。
年齢による人口構成が一定であると仮定して算出した年齢調整死亡率を男女別でみると、男性のがんは、戦後上昇した後、横ばい傾向にあったものが、1990年代後半から減少傾向にあります。女性では、1960年代前半をピークに、その後一貫して減少傾向にあります。
つまり、がんで亡くなる人の人口当たりの率や絶対数は増えているけれども、高齢化の影響を除けば、確かに減っているのです。ただし、他の先進各国が、すでに1980年代から減少傾向であったのと比較して、男性のがん年齢調整死亡率の低下傾向は鈍く、最近では、最低の座を米国に譲ったというのが現状です。
その理由のひとつは、日本の男性喫煙率の相変わらずの高さにあると考えられます。一方、女性では、1960年代以来、最も低い死亡率を保っています。これには日本人女性の喫煙率の低さが大いに貢献していると考えられますが、最近、若い女性でたばこを吸う割合が増えているのが問題です。このようなマクロ的なデータを見ても、がん予防対策の柱の1つは、たばこ対策ということがわかります。
ちなみに、日本の心血管疾患死亡率(とくに虚血性心疾患死亡率)は、WHO統計(2002年)に記載されている194か国中最低であるために、がん死亡率も最も低い日本人女性は、世界屈指の長寿となっています。
“がん対策基本法”に基づいて策定された“がん対策基本計画”の原案では、「75歳未満のがんによる年齢調整死亡率を今後10年間で20%減らす」という目標が掲げられています。このうち10%は自然減を見込んでおり、予防・検診・治療による対策により、さらに10%の上乗せをもくろんだものなのです。
◇津金 昌一郎(つがね・しょういちろう)
国立がんセンターがん予防・検診研究センターの予防研究部長。1981年慶応義塾大学医学部卒業、85年同大学大学院修了(医学博士)、03年から現職。主な研究分野はがんの疫学研究で、人集団を対象に、様々な要因と病気の関係を検証しながら予防法を探っている。「多目的コホート研究」という大規模長期追跡調査や、国内の研究を要約・評価して確かな予防法を提示する「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」などの研究班を率いる。「がんになる人ならない人」(講談社ブルーバックス)などの著書がある。
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2008/3/27 がんのリスク・マネジメント:(1)がんは身近な病気 毎日jpより転載
がんのリスク・マネジメント:(1)がんは身近な病気
2008年3月27日 毎日らいふ
もし、がん以外では死なないとした場合、がんになる大体の確率を計算すると、何歳までに何%になるのかを示した図があります。
人生の折り返し地点である40歳までだと1%程度にすぎません。その後、年をとるごとに確率が高くなり、60歳までだと7%です。
それから先は、男性のほうががんになりやすいという男女差が生じます。74歳までだと男性27%、女性17%、84歳までだと、男性46%、女性27%です。人生80年の現代の日本では、生涯のうちに男性の2人に1人、女性の3人に1人ががんになるということになります。
このことからわかるように、日本でがんが増えている原因は、がんという病気が牙をむき猛威を振るっているからではありません。がんになりやすい年代の人が増えているのです。健康で長寿の人が増えると、その集団ではがんが珍しいものではなくなるわけです。実際、日本人の3人に1人はがんによって亡くなっています。
他の病気で亡くなるほうが多かったときには、がんという病気には制御不能の怖いイメージがあり、本人への告知が躊躇されていました。遺伝病ではないかと恐れられたこともありました。今ではそうした秘密めいたイメージが薄れ、深刻ではあるけれども、ごくありふれた病気になりつつあります。
先進国では、がんや循環器疾患などを生活習慣病と位置付け、その予防を健康上の最重要課題としています。もちろん、不老不死の薬が存在しないのと同様、がんに絶対にならないという術はありません。ただし、がんを少しでも遠ざける方法ならば、次第に明らかになりつつあります。がんに対処するには、正しい知識を見極め、利用することが大切です。
平成19年度に施行された「がん対策基本法」の基本的施策に、“喫煙、食生活、運動その他の生活習慣および生活環境が健康に及ぼす影響に関する啓発および知識の普及、その他のがんの予防の推進のために必要な施策を講ずる”とするがん予防の推進が挙げられています。そして国民、つまり私たち一人ひとりの責務としても、生活習慣が健康に及ぼす影響などに関する正しい知識を持ち、がんの予防に必要な注意を払うよう努めることが求められています。
しかしながら、生活習慣・生活環境とがんとの関係など、がん予防にかかわる情報の量は多く質は混沌としているのが現状です。そこで、この場を利用して、科学的根拠に基づくがん予防法について知っておかなくてはならないことを、少しずつ簡単にまとめてみたいと考えています。
◇津金 昌一郎(つがね・しょういちろう)
国立がんセンターがん予防・検診研究センターの予防研究部長。1981年慶応義塾大学医学部卒業、85年同大学大学院修了(医学博士)、03年から現職。主な研究分野はがんの疫学研究で、人集団を対象に、様々な要因と病気の関係を検証しながら予防法を探っている。「多目的コホート研究」という大規模長期追跡調査や、国内の研究を要約・評価して確かな予防法を提示する「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」などの研究班を率いる。「がんになる人ならない人」(講談社ブルーバックス)などの著書がある。
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